58日前の午前2時26分。スマホの通知に表示された、なんも脈絡もない貴方の「さよなら」というメッセージを見て、私は胸をなでおろした。

私から振らずに済んだんだ。これで、全て終わり。本当は嫌みの一言二言、送り付けてやりたかったが、私は少し考えた後、トーク履歴を消して貴方をブロックし、アルバムのフォルダの写真もすべて消した。

マッチングアプリに表示された貴方のプロフィールを見て思ったこと

貴方は、私のことを恨んでいるかもしれない。だって、突然連絡を絶ったのはこっちなんだから。いつも5分以内に返信していた私が、3日もメッセージを放っておいたのだもの、普通じゃないと思うはず。でも、貴方は本当のことを知る由もない。何で、私が突然連絡を絶ったのか。

きっかけは、友人から送られてきた一枚の写真だった。

「これ、彼氏さんだよね?」マッチングアプリのスクリーンショット。貴方が、夕暮れの海を背景にキメ顔をしている写真。はっきりいって中々キモかった。最終ログインは1週間前。黒だなと思った。

プロフィールの「真剣に彼女を探しています」という言葉が、私の胸の奥に引っかかった。かえしが付いた釣り針みたいに外れない。私は釣り堀の、馬鹿なお魚だ。

ねえ、私は貴方の何だったの? ねえ? 「僕たち、付き合おう」って言ったのは貴方じゃなかったっけ? そうだ、そもそも私達は付き合ってもいなかったんだ。そうに決まってる。貴方が、そんな不誠実な人のはずがないもの。考えれば考えるほど、分からなくなった。

でも、ふと我に返った。私は、貴方のこと好きたっだっけ?

彼は私にとって、一緒にいようがいまいが「別に影響のない人」

貴方は、引き笑いはしないし、私にむやみに触ってこないし、株や投資の話しもしないけれど、でも…? 隣にいてときめいたことは? 一度もない。イルミネーションの帰り道、貴方の差し出した、乾いた無骨な手に触れた時、ドキドキした? いや、しなかった。可もなく不可もなく。

そう。貴方はオムライスの上に振りかけられたドライパセリ。あろうが、なかろうが、別に味になんら影響はない、そんな人。

私は、そんな人と一緒にいるために、メイク動画を見ながら一生懸命化粧をして、不器用ながらに頑張ってコテで髪を巻いて、履きなれない高いヒールを履いて貴方に会いに行っていたのだっけ?

急に私の中で何かが静かに崩れ去っていった。沖縄の瀬底ビーチの砂浜で作る、白い砂のお城みたいに、さーっと崩れてなくなった。

これだから、誰かのことを本気で好きになっちゃいけないんだ。こんな、どうでもいい人に裏切られたって傷つくんだもの。心の底から恋焦がれていた相手だったら、多分私は生きていけない。

別れを考えていた時、友達から送られてきた写真を見て決心した

問題はどうやって、お別れするかだ。貴方は、無駄にプライドが高い。こちらから何か言って、逆上されたらどうしよう。

私は友達からの写真を見て、僅か数十分のうちにフィンクの危機モデルの中の“適応と変化”という最終段階へ突入していた。

そうして、対処法について考え始めた3日目にして、貴方から「さよなら」と言われた。嬉しいような、嬉しくないような。なんだか、本当に呆気なかった。付き合っていた3か月の出来事が嘘みたい。

このご時世、大学もオンラインだから、貴方と会うことがないのは不幸中の幸いだった。もし合会てしまったら、私はたぶん平然を装えないから。泣きはしないけれど、余計なことを言ってしまうだろう。

もし、貴方がこれをどこかで見ているとしたら、最後に一言「アプリで彼女できるといいね。ばーか」と言いたい。