もしも今、1年前に戻れるなら私はどんな選択をするのだろう、と思う時がある。
大学4年生の春、彼氏ができた。大学生活の中でずっと好きだった人。
やっと気持ちが届いて、付き合うことになった。
彼の電話越しの優しい声も夜中のいびきも朝が弱いところも寂しがりやなところも全部好きだった。絵に描いたような大学生カップル。毎日のように一緒に過ごしていた。
2人でのんびり起きて、1日中布団でくっついている日常が当たり前だった。
ただ、タイミングが良くなかったなあ、と思う。
大学4年生。将来が決まる大切な時期だった。
彼は第一志望の会社から内定をもらい、私は大学院への進学が決まった。
お互いの夢に向かうための選択。そこから、いろんなことが変わっていった。
今まで1日中彼の腕の中にいるような毎日だったのに、大学院での研究に向けて、私は一日中研究室に缶詰めになる毎日になった。
夢に一歩一歩近づいている嬉しさと、好きなことを思う存分研究できる嬉しさが彼と過ごす嬉しさを超えてしまっていることに、この時は気付けなかった。
研究にのめり込むについれて、減っていくふたりの時間
ごめんね。
そんな毎日を過ごすうちに、デートの回数も、電話の回数も減った。早朝に起きて、横で寝る彼のいびきを聞きながら身支度をして研究室に向かう毎日。毎日LINEで伝えてくれた「頑張ってね」「あんまり無理しないでね」の言葉の裏側は、どんな気持ちだったんだろう。就活が終わってたくさん遊びたかったよね。
あんなに好きだったのに。研究に没頭すればするほど彼のことを考える時間が減った。
あんなに好きだったのに。死ぬほど緊張しながら告白したのに。
あんなに仲が良かったのに。
でも、嫌いになったわけではない。彼に対して不満があるわけでもない。
不思議な感覚だった。
それでもやっぱり、研究に夢中になって、いっぱいいっぱいになって、「ごめんね」「別れよう」と伝えた。
彼のことを考えて別れを決めたわけではない。
自分のことしか考えていなかった。
「就職してきっといい人見つかるよ」「寂しい思いさせてごめん」
そう言ったけど、結局自分がただ彼よりも大切なものを見つけてしまっただけだ。
「研究頑張ってね」と言ってくれた彼は、どんな気持ちだったんだろう。
自分勝手でごめんなさい。
あれから1年。彼とは一度も会っていない。
私は相変わらず研究に夢中になっている。大学院での生活は、大変だけど楽しい。
風の噂で、彼は就職した会社で新しい恋人を見つけたと聞いた。
馬鹿者の私が彼と自分の夢を同じ天秤で測ってしまったから
もしも1年前に戻れたら私はどんな選択をするのだろう、と考える。
あの時私がもっと彼と向き合っていたら。彼の優しさに気づくことができたら。
彼との時間をもっと大切にできていたら。
「研究」と「彼」を天秤にかけなければ。
でも、きっと、これで良かったんだと思う。私のためにも、彼のためにも。
お互いがお互いをどんなに好きでも、愛していても、うまくいかないことってあるんだな。
もし私が彼との時間を作ったとしても、彼が我慢を続けたとしても、この2人は絶対にうまくいくことはなかったと、今は思う。
進路が決まったときから2人の未来は決まっていたんだ。
恋愛はタイミングだ。
もしも、2人がもっと早く付き合っていたら、私が就職を選んでいたら。また結果は違うものになっていたのかもしれない。
ごめんね。
私が大好きな彼をふった理由。
私は、彼と自分の夢を同じ天秤で測ってしまう馬鹿者だった。
私は夢のために頑張るから、どうか幸せになってください。