確かに順調であったはずの関係だった。
社会人と学生という、社会的立場は違えど、私達は上手くやっていると思っていた。

別れを切り出してきたのは、人生初めての交際相手だった。
理由はささいな事だった。時間が合わなかった。会えない時間なんて二人の関係へのスパイスぐらいだと思い、気にもとめなかった。私が若かったのだろう。
好きで、大好きで、ふられた私に残っていた切り札は体だけの関係になる事だった。

全て貴方が初めてで、愛しい時間だった

抱かれている時だけは、私の事を見てくれている。愛を錯覚できる。そんな安心感と幸福感で、長い時間、発展することの無い時間を過ごしていた。
夜会って、一晩を共にすごし、朝日が登ってきたら貴方の寝顔を見つめて仕事に行く。幸福な時間だった。

交際も、初体験も、身体だけの関係も、全て貴方が初めてで、愛しい時間だった。
倫理的には認められない。友人にも話せなかった私の秘密。それでも、私には貴方が世界の全てだった。

付き合っていた時のように、日中のデートは一回もなく、記念日のディナーも何も無い。
そもそも、私達の関係には始まりの記念日もない。
それでも幸せだった。私には貴方がいたのだから。

私の一番は貴方なのに、あなたの一番は私じゃないのね

ふられたのは、きっと私のせい。
時間が無いなんて嘘だろう。私の何が悪かったのか。そんなことを聞ける勇気は、私にはなかった。それだけ貴方の事が大切だった。愛していた。
いつかまた、私を見てくれる。そう思いながら月日が流れていった。
たまにの逢瀬で、貴方の周りの女性の影に怯えながら、都合のいい女を演じながら。
気がつけば、名も無き関係は1年経っていた。

見慣れない歯ブラシ。置いた覚えのない化粧品。私色に染まっていたはずの貴方の家が、段々と灰色にくすんでいった。私の一番は貴方なのに、あなたの一番は私じゃないのね。
連絡をくれる頻度も、だんだんと少なくなり、そして連絡が取れなくなった。
私だけだよと言っていたくせに。
好きだといって肩を抱き寄せて愛おしそうに私を見つめていたくせに。
どんなにそう思っても、問い詰められる肩書きも私には無い。

「もう会わないって言ったらどうする?」
背中を抱きしめながら、声を絞り出した。
返ってきたのは私の期待していた甘い言葉と反対の返事。

「今までありがとう。さようなら。」

二回目はきっともう心が持たない。だからさよならを告げた

あの時、貴方は何を思ったのだろう。
きっと貴方は、私の寝顔を見ていたことはないのだろう。
少しは貴方の心は揺らいでくれた?
吐きだした一言は、言いたくなくて、言わなければならなかった言葉。
そして貴方に二度と言われたくなかった言葉。
こんなに惨めになるなら、もう恋なんてしない。
それだけ思えた貴方に会えたことは、私にとってとても幸福なことでした。

初めての人は一生忘れられないと言う。
抱き合った日も、頭を撫でられたあの瞬間も、初めて手を繋いだ日も。
貴方を忘れさせてくれる人には、絶対に会えないと思う。
さようなら。大好きだった人。

一度目は貴方からだった。
心が張り裂けそうだった。
二回目はきっともう心が持たない。
だから貴方にさよならを告げた。
大好きだったよ。だから私の知らないところでどうぞ不幸になってください。