私に2年程の期間、一緒に過ごしていた人がいた。
8個上の彼は当時二十歳そこそこの私からはとても大人に見えて、頼りになる存在だった。付き合う付き合わないもどっち付かずな状況が続いていたが、それでも彼と居られるなら…と流れに身を任せていた。
私の中の何かが切れた彼の言葉
私と彼は音楽好きという共通の趣味があり、出会いもライブハウス。たまたまお互いが好きなバンドのライブで知り合い、すぐに意気投合。仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。毎晩仕事が終わると電話を繋ぎ、他愛もない会話をしてお互いに夜の寂しさを埋めていた。
当時私はアパートで一人暮らし、彼は実家暮らしだったため、週末になると彼がうちへ遊びにきていた。二人でどこかに出かけ、美味しいものを二人で食べる。温泉旅行にも行った。世間の恋人たちと何ら変わりない私たちは、彼からの「君に恋人ができたら僕は身を引くからね」という約束で、いつまでも曖昧な関係を重ねていた。
ある冬の夜、いつものように電話をしているときに彼がこう言った。
「再来月には家を出て一人暮らしを始めることにしたよ」
そっかぁ!よかったね!遊びに行っちゃおっかな~!なんて冗談まじりに言った私に、彼は続けてこう言った。
「実はもう部屋も決まってて…広めの物件にしたし、ひと部屋余裕もある。駐車場も2台分貸りられるから仕事の都合がついたらいつでもこっちにきていいよ。一緒に暮らそう。」
突然すぎたこの言葉で私の中の何かがプツンッと切れた。
付き合うかどうかも曖昧にしていたのに?
期待するなと念を押していたのはそっちなのに?
私が自分のことをずっと好きでいると思って、なんでもYESと言うとでも思っているのか?それまで私が頼りにしていた大人の男性は、一瞬で私の中で「バカな男」に成り下がった。その後も何十分か電話はしていたはずなのに内容が全く思い出せない。
ナメられた。プライドが許さない。バカな男に流されてしまった
数日後私は「仕事を変えて今住んでいる土地から離れるから一緒には暮らせない」と彼に言い、関係を終わらせた。
最後に彼が言っていた「頑張ってね、いつまでも遠くで応援しているよ」なんていう薄っぺらいセリフは今でも呪いのように私の頭に残っている。
私が彼を振った理由は二十歳そこそこの女にもプライドがあったということ。長い間曖昧にされていたのに突然こちらが当たり前に喜ぶかのように未来の話をされたことがどうも気に入らなかった。
今でも彼の事を時々思い出すし、一緒にいた時間は間違いなく楽しくて充実していた。それでも恋人でもない、友達とも言い難い私たちは最初からこうなる運命だったのであろう。
彼とのあの時間があったからこそ、今の私がある。新しい恋人とは上手な距離感で仲良く過ごすことができている。
強いて言えば、「恋人」という縛りがない彼とは何でも言い合えていた。どうせなら最後に「いつまでも言う事を聞くバカな女じゃないんだぞ」って言ってやればよかったかな。
バカな男に流され、ハマってしまったバカな女はそれだけが後悔である。