社会人2年目で婚約したとき、彼は異動を控えていて、もしかしたら地方転勤になるかも知れないと言った。それを聞いた私は、「その時は仕事を辞めて着いていくね」と即答した。それくらいに、当時の私にとって仕事はどうでもよかった。あわよくば仕事を辞めて専業主婦になれたらいいのになんて思っていた。
そんな私には働く理由が見つかったのは、最近のことだ。

銀行員として働き始めて4年、小さな案件をこなしながらなんとなくやり過ごしていた

私の仕事は銀行員だ。
就活が終わった頃、親戚には「銀行員って預金の窓口の人?」と聞かれたりしたけれど、私は融資担当をしている。営業担当がお客さんからもらってきた融資の希望を、稟議に落とし込み、支店長の決裁をもらう。
そして、契約書を準備したり、実際にお金を動かして融資を実行したり、返済が滞りなく行われているかを管理したり、といった事務をしている。
事業承継とか、M&Aとか面白い仕事が出来るかしらと思って入社したけれど、働き始めて4年、下っ端に回ってくるのは小さな案件ばかり。有価証券報告書や決算書を眺めては、この会社はまた借りなくていいお金を借りてるなぁ、とか、あんまりいい案件とは思えないけど最後は担保で返済してもらえるから良し、とかといったことを考えながら、なんとなく日々をやり過ごしていた。

コロナが日々を一変。記憶がないほど忙しく、資金繰りの相談が相次いだ

そんな日々を一変させたのがコロナだった。
緊急事態宣言に伴う外出自粛が始まると、物やサービスが売れず、資金繰りの相談が相次いだ。
政府が無利子融資の開始を発表すると、申し込みが殺到した。膨大な数を必死に捌いたが、他の機関も巻き込んでの話になるので、融資実行までにはもちろん時間がかかる。
「明後日までに融資をしてもらえないと、取引先へ代金が支払えないんだ。」
数ヶ月前、他愛もないお話をした社長さんが、別人のような悲痛な声で電話をかけてくる、そんな毎日。5、6月あたりが忙しさのピークで、その辺りの記憶はほとんどない。

その間にも悲しいニュースはたくさんあって、大好きだったローラアシュレイやキャスキッドソンが破産してしまった。
目の前のお客さんの会社は潰れてほしくない。仕事をしていて初めて、強いモチベーションとなった。

少しでも多くの会社を守りたくて、私は今日も会社に行く

私はしたことがないからわからないけれど、起業をするというのはきっとものすごい覚悟と、労力のいることだと思う。創業者の方は、その覚悟を決め、労力を割いても、誰かに届けたい商品やサービスがあったのだろう。
そして後継者の方々は、その精神を継いで、自分の代で会社を潰す訳にいかない、もっともっと成長させなければ、と日々頑張っている。そんな創業者の方が誰かに届けたかった価値を、後世に引き継ぐためのお手伝いをしたい。
それがやっと見つかった私の働く理由だ。

先日、今年1月の倒産件数はバブル期以来の低水準という新聞記事を見て、私たちが必死で働いたことが少しでも役に立ったのかなと嬉しくなった。
今はこうやってなんとか件数を抑えられているけれど、まだ気は抜けない。今借りたお金の返済が始まる、アフターコロナが勝負だ。少しでも多くの会社を守りたくて、私は今日も会社に行く。