彼からの突然の別れ話
「君のことを好きに思えない」
端的にいうと彼はそんなことを言った。
しかしその時私にとって、そんなことはどうでもよかった。
そもそも別れ話になったら別れると決めていたし、彼はこれからも友達でいたいと言ってくれている。この時考えていたことは二つ。
一つは、友達でい続けるために私は何を知り、何を話すべきか。
もう一つは、この日のために用意したバレンタインチョコをどうするか。
(余談だが、私はチョコが苦手で自分で食べるという選択肢はなかった)
遠距離恋愛が決まっていた交際だったけど
彼と急接近したのは、ある会話が発端だ。
共通の友人のアメリカ人に会いにニューヨークまで行こう、という話になった。
それから順調にデートを重ね、告白はとてもロマンチックなものになった。
夜道、美しい月を見ながら「付き合っても良い?」と言われた。あの時の彼の笑顔、私の感情、すべて今でも覚えている。
初めてのニューヨークは楽しくて仕方がなかった。
友人が車であちこち連れ回してくれたし、クラブデビューもさせてくれた。
そして私の彼への気持ちも最高潮に盛り上がっている時だった。
しかし一つだけ気がかりな点があった。彼の態度が何かいつもと違う。まぁいいや、そんなことを思いながら、彼が寝た後手紙を書いた。
帰国後、空港で別れてから彼と遠距離生活が始まると決まっていたのだ。
チョコレートも旅行中であることもあり、手作りはできない。
無知ながらもそれっぽいチョコレートを買って、そっとキャリーケースに忍ばせていた。
ふと振り返ると彼のキャリーが空いている。中にリボン付きの包装された小包。サプライズか、そう思い私は気づいていないふりをした。
そして訪れた旅行最終日。私は彼に見つからないように隠したチョコと手紙を思い返しては、にこりと笑った。いつ渡そうか。今夜だろうか、それとも日本時間で14日になる、明日の朝だろうか。
そんな時、彼が突然話しだした。「僕のどこが好き?」と。
そして冒頭の別れ言葉に繋がる。いや待てと、なぜ帰国するまで待てないのか、私たちは明日10時間以上フライトで隣の席にいなくてはならない。それをわかった上での発言か、と。続けて彼が言った。「遠距離で君を好きでい続けられる自信がない」
その一言で私は悟った。彼はきっと私を傷つけないようにそう言ってくれているのだ。
帰国の便は楽しくてしかなかった。10時間もあるのに話がつきなかった。空港での別れ際、彼は初めて抱きしめてくれたし、頭を撫でてくれた。そして最後は笑顔で別れた。その時の温もりをしっかりと胸に仕舞い込み、私は決して振り替えらず、そのまま帰路についた。
破局後、発覚した事実と悟ったこと
さて、その後わかったことがある。彼には私と別れてすぐ遠距離恋愛を始めた彼女がいると。
そういえばチョコを渡した時、彼は言っていた。「ありがとう、ごめん何も用意してなくて」何も用意してなくて!?じゃあ、あのキャリーケースに入ったプレゼントの小包はなんだったのか。
私はこの体験で学んだことがある。
人は簡単に自分に都合よく解釈しがちだということ、そして遠距離だから~なんて理由は信じてはいけないということ。
彼は確かにはっきりと言ってくれている。「君を好きではない」と。
でも実はこれ、向こうから告白されて1ヶ月後のことだ。流石にそれはない。なら告白をしないでくれ。悲しみは怒りへと変わった。
私も彼のことを言うほど好きではなかったのかもしれない。でも、お気づきかもしれないが、この人が初めての彼。それから恋愛にはすっかり億劫になってしまったし、ニューヨークに行くたびに当時の事件を思い出してしまう。