「わたしはこの先もあなたのことを好きになれる自信がない」
いま振り返ると最低だ。今更振り返らなくとも深く傷つける酷い言葉だってわかる。これはわたしが彼に最後に言った言葉だ。友達としてこれからも連絡してもいい?と聞いてくれた彼にごめん、と伝えてから本当にまるっきり連絡はない。

高校の同級生で顔見知りだった彼と地元で再会し、交際開始

彼は高校の同級生だった。学生時代はあまり話すこともなく同じクラスになったこともなかった。でも互いの存在は知っているような存在。
そんな彼と再会したのは高校を卒業してから六年後、地元の美容室だった。彼は当時地方の大学院に通う学生で、わたしは関東で会社勤めをしていた。
夏休みの帰省で帰ってきていた彼に二人で食事に行こう、と誘われたのが始まりだった。

学生の頃はお互い深く話したこともない二人、話すのはほとんど初対面のような会話ばかりだった。でもそんなありふれた会話の節々から彼の素直さと優しさを感じられた。
それから数回出かけた帰り際、彼から付き合ってください、と言ってくれた。
彼のことはとても優しくて良い人だと思っていた。この人のことなら好きになれると思った。そこから彼とのお付き合いが始まった。

お付き合いしてから一週間後には彼の夏休みが終わり、彼は学生生活、わたしは社会人として遠距離恋愛が始まった。
なぜだろう、一ヶ月に三、四回会っていたはずなのに、パタリと会えなくなってからは会おうとする気持ちも、連絡する気持ちもまるで湧いてこない。

「わたし彼のことどう思ってるんだ?」時間が経つほどめぐり出す思考

本当に彼は優しい人で、仕事で忙しいわたしをいつも気遣ってくれ、趣味も好きな音楽も似ていた。手を繋ぐと離すのが寂しいとさらっと言っちゃうすこし甘えたがりな一面もあった。素敵な人だったと思う。

でも時間が経てば経つほど、まるで恋人という関係性にいることは忘れてしまう。「あれ?わたし彼のことどう思ってるんだ?」とぐるぐるいらない思考がめぐり出す。

付き合って半年経った頃、クリスマスに帰ってくると彼から連絡があった。当日わたしは仕事。地元に帰ってくるのは20時過ぎで、会うのが億劫になっていた。でも恋人同士会わないといけない日、なんて勝手に思い込んで彼と無理やり会う予定を作った。一緒にディナーを食べてプレゼント交換して帰宅。それが彼と最後に会った日だった。

クリスマスの日も変わらず彼は優しかった。仕事終わり、疲れてるのにありがとう。そう言って楽しい話題を振ってくれたりもした。でも久々に彼と会ったわたしの中でこれ以上この人と一緒にいて自分は楽しいのか、という気持ちが湧いてきてしまった。本当に酷い話だと思う。

別れを告げた時、彼を好きになる努力をしていなかったと気づいた

でもいつもそうだった。好きな人ができても、誰かとお付き合いができても、すぐに「この人とこの先も一緒にいていいの?」そんな損得感情で好きを有耶無耶にして無かったことにする。恋愛になるといつもそう。

彼に別れを告げたのは最後に会った日から三日後だった。
「わたしはこの先もあなたを好きになれる自信がない」
自分から思いがけない言葉が出てきた時に、わたしは彼のことを好きになるための努力をしていなかったんだと思った。それなのに好きになれる自信がない、なんてカッコつけて彼を深く傷つけた。

あれから一年、素直で優しい彼は、わたしの言ったもう連絡はしないでほしい、の言葉通り、一回も連絡をしてきていない。
わたしはこれからも人を好きになる努力をせずに生きていくのだろうか。