入社したのは、「美人こそ正義」がまかり通る会社だった

大学を卒業し、「会社」という組織に組み込まれてからの数年間は、間違いなく私の人生の中で一番卑屈だった時代になると思う。
仕事で失敗しまくったからじゃない。顔がきれいじゃないからだ。

私の会社は業界柄、女性が少ない。だからかは不明だが、「美人・かわいい子こそ正義」という空気がそこかしこに流れ、新入社員が入ってくる時期には様々な部署で新入女性社員の格付け大会がおこなわれる。というわけで、入社以来、容姿が特段整っているわけではない私に「もしかして自分は女性として価値がないのかしら?!」と思ってしまわざるを得ないような出来事が度々起こった。いくつか具体例をあげたい。

1) 入社直後に「かわいい新入社員だけが呼ばれるオッサン主催の飲み会(毎年恒例)」が、自分の知らないところで開催されていて、同期入社の女性が私以外ほぼ全員呼ばれていた。

2)うちの会社は美人さんが多いのだが、たびたび「うちの会社って、つくづく女は顔採用だよな~」とかいう失礼な発言をする人がいる。そんな中「あ、おまえは体育会枠かな」と、わざわざご丁寧に補足をしてくれた同期がいた。そりゃどうも。

3)年の近い先輩たちと飲んでいるときに「おまえ、けっこう市場価値高いと思うよ」と言われ、そのあとに続いた言葉は「だって総合職でバリバリ働いてて、男と同じくらい稼いでるし」。ちなみにその場にいた他の女子たちには「かわいいから引く手あまたでしょ」とか「美人だから男ほっとかないでしょ」とかそんなことを言っていた。私の魅力はカネだけかい。

改めて上記の出来事を振り返ってみると、本当にばかばかしいと思う。気にしていた自分がもはやおかしくなってしまうくらいだ。友達が同じような目にあっていたら、「そんなこと言ってくる人たちがアホなんだから、気にせず無視してればいいんだよ」というだろう。

だけど私は入社以来こういった発言にいちいち衝撃をうけ、疲弊していった。別にオッサン主催の飲み会に呼ばれたかったわけでも、先輩にかわいいねって言ってほしかったわけでもないけれど、明らかに周りの女性と比べて不当な扱いをされている事実は、私の自己肯定感ってやつを少しずつ、しかし確実に破壊していった。

「あなたみたいに容姿が整っていない女性はこの会社にいる価値はありません」と言われているようで、どうしてこんな顔に生まれてきてしまったんだろうと、小さい目と低い鼻を呪った。会社は仕事をしに行く場所のはずなのに、かわいくない自分は仕事で頑張っても意味がないのではないか、とまで思うようになっていった。

無意識にはっていた、周囲からのジャッジに対する予防線

入社6年目に、別の部署の課長と飲み会で一緒になる機会があった。なかなかこういう風に部署をまたいでお酒を飲む機会もないよね、という他愛もない会話をしていたのだが、その中で私が「まぁ他の女の子たちはたくさんこういう機会があるんでしょうけどね。私、もはや女じゃないんで、他部署の飲み会とか全然呼ばれないんですよ。需要ないんで。あはは」みたいなことを言った。特に深く考えもせずにした発言だった。
すると、「なんでそんなこと言うの?わざわざ自分の価値を貶めるようなこと、言わなくてもいいと思うけど」という予想外の返答があった。

指摘されてびっくりした。自分から「私は女性としての価値がありません」と先にアピールすることで、周りからジャッジをうけないように予防線をはっていたのだろうが、それは自分の価値を貶める行為だった。怖いのは、それを無意識におこなっていたということだ。知らないうちに、周りからのノイズが自分の中の深い部分に入り込み、自分自身の考えや価値観とすりかわっていたのだ。そして、それは時間をかけてゆっくりとおこなわれたため、自分でもそのプロセスに気づくことができなかった。

もう二度と、他人の価値観にコントロールされないように

結局、容姿という非常に狭い評価軸で女性をジャッジしてくる周囲に対して嫌悪感を抱いているくせに、その評価軸において評価されない自分を恥じていたのだ。それが意味するところは、彼らへの屈伏だ。私はぞっとし、これ以上周囲の人たちに自分の心をコントロールさせてはいけないと決めた。

人生は自由だし、世界は想像以上に広い。一つのコミュニティでまかり通っている価値観は、別のコミュニティでは全く意味をなさないかもしれない。特定の価値観に苦しめられるなら、その場所を離れて新しい場所に移ったっていい。その場所で、おかしいと思う価値観を変えるために戦ってもいい。
ただ、何があろうと、誰かの価値観に自分の価値を決定することをゆだねないでほしい。