たった一つのウイルスがこんなに世界を変えてしまうなんて。そしてそれ以上に私の見た目を大きく変えるなんて。
高校を卒業した2020年3月の私はそんなこと思ってもみなかった。

大学生活は、家に閉じ込められる形でスタートした

4月5月の緊急事態宣言で私の大学生活の幕開けは、開くどころか、家に閉じ込められる形でスタートした。授業も始まらず、履修申告期間すら決まらない、友達にも会えない。一人っ子の私はSNSを見るか、ドラマシリーズを見尽くすくらいしかやることはなく、内側にこもる生活をしていた。

そんな時に各方面を賑わせ始めたのが「コロナ太り」というワードである。もともとそこまでスタイルが悪いということはなく、高めの身長のおかげで、標準的な体重でも「細く見えるね」と言ってもらえることもあった私だが、毎日誰にも会わず、画面に釘付けになる日々の中でこの言葉に過敏に反応してしまった。これがその後9ヶ月間にわたる、大混乱のきっかけだった。

「コロナ太り」への恐怖感がとてつもなく膨れ上がってしまった

インスタを見れば、発見欄に「コロナで太りたくなければこれしか食うな」「絶対に太る食べ物ランキング」「痩せたければこの食材だけ」「コロナ太り解消法」といったまとめポストがゴロゴロ転がり、朝のテレビではコロナ太り解消レシピだの解消運動だの、そういった特集がどんどん増えていった。そして、通っていたダンス教室が閉まり、体育の授業もなくなり、出かけることもできず、マンション住まいのせいで家でも満足に動く事ができない。その状況も相まって私は、「やばいこのままだと太る」「絶対太りたくない」「顔がイマイチなんだからこれ以上体重増えたらみっともなくてやばい」というマインドに段々と陥ってしまった。

もともと高校生の時から自分の顔がどうにも嫌いで、「顔がダメならとにかくスタイルだけでも維持」と思い込み、他のクラスメイトのようにスイーツやタピオカを食べることを必死に我慢していた。あの子はかわいくて、美味しいもの食べても太らなくて、いいな。私は健康な食事だけにして、おやつ我慢しても痩せないのに、いいな。こんな考えが根底にあったからこそ、「コロナ太り」への恐怖感がとてつもなく膨れ上がってしまったのだと今では思う。

半年で10キロ減った代わりに、心の健康を完全に失ってしまった

とにかく、3食のうち昼と夜の量を極端に減らした。お米は一口、肉、魚、脂肪分は少なくして野菜はたくさん食べる。お腹が空いたら凍ったフルーツか0キロカロリー食品を詰め込んでどうにか凌ぐ。自粛が明け、外に出始め、大学に行き始めても、「コロナ太り」への恐怖は消えなかった。むしろ新しい環境で出会った人々のきらきら感に圧倒され、余計にダイエットに突き進んでしまった。

そんな狂ったような努力で体重はするする減った。半年でマックスから10キロ減った代わりに、私は心の健康を完全に失ってしまった。何をしてても悲しくなる、夜不安で寝れない。ついに12月、私は大爆発をして一晩中泣き喚いた。あまりに低血糖で頭が回っていなかったのだろう、泣いていた理由すら思い出せない。それくらいギリギリの自分に、ここでようやく気がついた。

これからは食べることを目一杯楽しみたい

そこから3ヶ月、少しづつ食べることを克服していった。初めはお米を食べる自分を許せなくて、お菓子やタンパク質に逃げていた。しかし徐々に、食べてもたいして見た目が変わらないということを実感した。むしろ食べたほうがよく踊れる、レッスンでなんでもできる、振り付けの覚えのスピードも上がった。そして極め付けがお正月に食べたおせち。その美味しさに完全に拒食脳から目が覚めた。こんなに美味しいものを我慢していたなんて。人生無駄にしてたわ。

それでもたまにまだ、食欲がコントロールできない瞬間がある。昨日は母と喧嘩をした不安感で夜中にお菓子を過食してしまった。けれど今はこれも前向きに捉えている。高校生の間、ずっとこんなに美味しい甘いものを我慢してたなんて私馬鹿みたい、昨日の過食中の新たな発見だった。

これからは食べることを目一杯楽しみたいと思う。食べてもそんなに見た目は変わりません!痩せの価値観に苦しむ世の女の子たちに、一人でも多くに、このメッセージが届きますように。食べるあなたが世界一可愛い。