高校卒業を間近に控えた18歳のとき、初めて彼氏ができた。メールでデートに誘われて、2回くらい会ってから告白されて付き合った。

結論からいうと、3ヶ月くらい経ってわたしからふってしまった。自分でもなぜふってしまうほど、あの頃ずっと悶々としていたのかわからなかった。

彼と自分の育った環境が違い過ぎて、「自身」が持てなかった

彼は、誰に聞いても「いい人」という言葉が出てくるような、爽やかで優しくてまっすぐな、少女漫画から出てきたような人だった。

デートするまでほとんど話したことがなかったけれど、話してみるとやはり噂通りいい人で、学校での友達の話や妹のこと、家族やペットの話もしてくれた。絵に描いたような素敵な家庭で、真っ直ぐに成長した“育ちの良い人”という印象だった。
一方自分の家庭は、夕食を囲むことはほとんどなく、親からは人格を否定するようなことを言われ、両親も喧嘩ばかりしていて“真っ直ぐに育つ”という言葉なんて、全く当てはまらないような環境だった。

だから自分をいい人間だとは絶対に思えなくて、自信がなくて、捻くれて、周りに合わせて常に自分を偽ってる気分だった。それどころか、本当の自分はもうどこかに行ってしまって、世界に馴染もうと必死で鎧を着て生きているみたいな感覚だったし、その鎧こそが本当の自分なんだと思い込んでいた。

だから、みんなが口を揃えて「いい人」という彼と特別な関係になることは、彼に申し訳ないのではないか、自分は彼に値しないのではないかと、告白されてからとても悩んだ。

彼が付き合いたいと言ってくれているのに、わたしが付き合うのは申し訳ないと思うのは、今考えるとおかしなはなしなのだけれど。

それに正直なところ、わたしは彼に対して「好き」という感情を持っていなかった。でも嫌いというわけではないし、「素敵な人に選ばれたのだから喜ぶべきだ」と自分に嘘をつき、「きっと初めてだから戸惑っているだけだ」と自分に言い聞かせ、付き合うことを承諾した。それに、恋愛経験のある友達に相談したら、「付き合ったら好きになるよ」などとアドバイスをくれたのもあって。

彼と一緒にいると「自分は女」だということを意識して居心地悪かった

付き合い始めてからも、彼はいつも優しくて本当にいい人だった。けれど、時間が経っても好きという感情は湧いてこないし、会いたいのかもよくわからないし、とにかく悶々とした感情だけが続いて、結局ふってしまった。

自分は彼に値しないのではと思っていたことは、彼をふった理由のひとつではある。でも、考えてみると理由はもうひとつあった。

彼と2人でいると、なんともいえないプレッシャーのような不安みたいなものを常に感じていた。デートを重ねても慣れることができず、いつも居心地が悪かった。

それは、今まで友達と遊んでいるときや、ひとりで街を歩いているとき、家にいるときにはいちいち意識していなかった「自分は女」という事実が、彼と一緒にいることによって目に見える形で現れたこと。そして、それを受け入れることができない気持ちの悪さだった。

例えばひとりで部屋にいるとき、自分はただの「自分」だけれど、親と一緒にいると自分は「子供」になる。友達と一緒にいれば「名前のついた1人の人物」になる、そして、彼と一緒にいるとわたしは「彼女」になる。生まれてはじめて、相手の存在が自分の性別を明確にする関係性を築き、それを自分は受け入れられなかった。

自分の中で「女性や女らしさ」への嫌悪感みたいなものを持ち始めた

自分が女であることなんてずっと昔からわかっていたのに、なぜ受け入れられなかったのだろう。わたしは制服のスカートが短いのが好きだったし、ロングヘアが好きだった、コスメや香水も好きだった。

けれど、スカートを短くして家を出ようとすると母親に「そんな格好していたら痴漢に遭う」「触られても自己責任」などと言われ、髪を巻いたり香水を付けていると「外見だけで寄ってくる男はロクな人じゃない」「なぜそんなにまでしてモテたいの?」と言われる始末だった。

自分が好きでやっているだけなのに、なぜ男を誘ってるみたいに言われないといけないんだろうかと何度も思った。そういう言葉を聞いていくうちに、世の中では女という性は、ジャッジされたり消費される側で、女というだけで理不尽な目に合う、ということに少しずつ気が付いてしまった。

そして自分の中に、女性や女らしさへの嫌悪感みたいなものを持ち始めてしまっていたのではないかと、今になって思う。

こんな理由でふってしまった彼に少しだけ申し訳なく思うけれど、こうしてあの頃の違和感を言葉にできるようになり、当時よりは自分の女性性を受け入れられていることを確かめられて、ありがとうと思う。

あの頃から8年くらい経った今でこそ、“お付き合い”には慣れてきたけれど、まだ男らしさ全開で自信のある男性は少し苦手だったりする。