コロナ禍。新しい生活様式。ステイホーム。
いつしか当たり前に聞くようになったこの言葉たち。世界は静の方向に大きく変わってしまったけれど、私はというと、幸運なことに仕事を失うこともなく、むしろコロナ特需で今まで以上に忙しく働いた2020年でした。
仕事を失った人が沢山いるということを重々理解した上で批判を恐れずに言うと、私にとって2020年は、社会人生活でこれまでにない程心をすり減らした1年でした。それこそ、年が明け、2月になるまで1年を振り返ることができない程に。

「絶対コロナに罹らないようにするから」と夫に言っていた

私は、とある企業で店舗の従業員を使用する立場にあります。コロナが日本に上陸した当時、私は東京・渋谷で働いていました。
ただでさえ人の多い渋谷の街。今では当たり前のフェイスシールド、透明なパーテーションなんかもまだ普及しておらず、マスクをしていない観光と思しき人もたくさんいました。

接客業なので、もちろん毎日電車に乗って出社しました。4月のあの3連休も、1度目の緊急事態宣言が出た後も。接客業にとって生命線となるマスクが市場に行き渡らず、感染の恐怖から休職を申し出るアルバイトさんが続出しましたが、私はシフトを作らなければならない度に彼らに電話しました。「バイト、出れませんか?」
そして、数少ない出社を継続してくれるアルバイトさん達に対しては、私自身が言葉のサンドバッグになることを選びました。「不安なことや、家庭の事情があったら何でも私に言ってください」

12時間以上労働する日も、休日に電話で指示することもざらにある私を心配して、夫はいつも、私の会社に私の代わりに怒ってくれていました。その度に夫に言いました。「あなたには何があってもうつさないように、絶対コロナに罹らないようにするから」
何かを触るたびに手を洗い、外に持って出た物は部屋の中に入れないように徹底しました。

久しぶりにまじまじと見た自分の顔は酷いものだった

しかし昨年末、恐れていたことが起こりました。夫がコロナに感染したのです。経路不明の市中感染。私は陰性でした。
夫は週2日程度出社する以外はリモートワークで、私はあれだけウイルスに気をつけて、二人とも仕事以外はどこにも出掛けなかったのに。幸い夫は軽症で、入院することもなく最短で社会復帰。陰性だった私は潜伏期間も含めて、最終的に約1ヶ月間の完全自宅待機となりました。

あんなに一生懸命働いていたのに、仕事に穴を開けた私のケータイはピタッと鳴らなくなりました。久しぶりにまじまじと見た自分の顔は酷いもので、職場、家庭、いろんなところで気を張り、弱音を吐くことも忘れて朝から晩まで仕事しかしてこなかった私は、この1年間で誰の目から見ても老け込んでいました。そして出社停止になったことで、初めて、自分自身に向き合う時間を持つことができたのでした。

強制的に立ち止まったことで、弱り続けていた心を癒すことができた

私は多分、メンタルが強い方だと思います。お酒や食事、大好きな音楽、ギター、読書、映画、愛犬との時間、目覚ましをかけずに眠ること…自分の甘やかし方を知っています。けれどコロナ禍の毎日で、その日1日に使える自分の心を限界まですり減らして、足りない睡眠や聞かなくなった音楽の代わりを大量のお酒に求めて、いつまでも全回復しない心に鞭打って働いていたのです。

自宅待機期間、お気に入りの本をもう一度読み直しました。サブスクに登録して、観たかった映画や仕事で行けなかったバンドの過去のライブ映像を、録画したままほったらかしにしていたバラエティ番組を、頭を空っぽにして見ました。会社のEラーニング動画ばかり見てこれまで全然触ってこなかったYouTubeに、いくつもお気に入り登録をしました。アラサーになって、人生で初めて芸能人のファンになり、毎日その人のブログを読みました。

自分の夫がコロナに罹ったのに、世界には、日本には、コロナで苦しんでいる人がこんなに沢山いるのに、なんて不謹慎な!と思う人もおられるでしょう。けれど、この空白の時間がなければ、私は駄目になっていたと思います。強制的に立ち止まったことで、私はやっと、約1年の間、沈黙のままに弱り続けていた心を癒すことができたのでした。

心にもビタミンのようなものが必要

そして私も自宅待機期間を終え、迎えた2021年。
残念ながら、仕事は相変わらず激務で、コロナ禍の終わりはまだ見えていません。しかし今の私には、体の元気は勿論のこと、心にもビタミンのようなものが必要だと分かっています。

マスクやアルコール消毒液が行き渡り、ワクチンができ、身を守る方法が段々と分かってきた今、自分の心を守るためにどうするのか。心は多くを語ってはくれないということを肝に銘じて、自分にとっての心のビタミンをたくさん摂ること。そうすれば、きっとまたマスク無しの顔で笑い合える未来が来ると信じて、今日を懸命に生きたいと思います。