友達の友達から急に彼氏に昇格したあなたのことを、私は何も知らないままだったんだと思う。あまりに不器用な告白に浮かれて、了承することを優しさと勘違いして。顔を合わせて真面目な話をした覚えはほとんどない。

別々の高校に通ったっきり、朝の「おはよう」のLINEはあっという間に「いってきます」で終わる。図書館の屋上で待ち合わせてもキスして恥ずかしがっての繰り返し。深夜に長電話はしてたけど、きっと最初の一年くらいだし、沈黙の時間の方が多かった。
そして、どんどん離れていく君の心を引きとめる手段すら知らなかった。「おはよう」もなくなって、振られるのはわかってた。

高校で好きな人できたって、受験も控えてるしってLINEで伝えられた。よくある話とわかっていても大泣きしたから、私も恋はしていたんだと思う。 

中3の秋に付き合いはじめて、高3になる直前に別れて、大学1年の秋に再会した元カレ。最後は私の方が好きだったのは自覚している。慌てて新しい連絡先をせがんで電話した。
もう終わった恋と思っていたし、私はあの頃からは変わったつもりだった。友達に戻れるつもりだった。

けど、電話口の彼はまだ高校時代を生きているみたいだった。相変わらず無口で、まだ言葉に不器用な彼がそこにいた。

初めて話してくれた「私より好きになった子」のこと

だから、私から思い出話を始めた。話したいことは沢山あった。はじめての、中身のある電話。受験。カラオケで歌った歌。あの日のキス。懐かしい友達の名前。あ、ほら、ディズニー好きでしょ、切り絵だとか折り紙だとか、細かい作業が上手。トマトと謝られることが苦手で、理科の先生がお気に入りで、プールの授業がないって喜んでた。これくらいは私も知ってるよ。あ、ねぇ、そういえば、私より好きになったって言ってた子とどうなったの?

少しづつ、でも、全部、話してくれた。同じ部活。合唱部。アルトパートだけど高音も上手。特別かわいくはないけれど、長い髪がきれい。集合写真しか持ってない。優しい。彼女も別の人に恋してたんだ。一クラスしかなかったから、毎日会ってた、俺も友達の人。友達だった人。3年間同じクラスで過ごすはずだった人。

彼は自殺してしまった。理由は分からないけど、進学校でプレッシャーもあって、昔から自殺の多い高校ではあった。けど、そんな、好きな人が自殺、だなんて。そんな。

そばにいるしか、できることがなかった。付き合えるわけないけど、そばにいたいと思ったんだ。それしかなかった。ごめん、言えなくて。
言いたかったのだけど、言わない方がいいと思って。言い訳には、できないと思って。

「それで正解だよ」いつもの何倍も冷静に返した。私は何も知らなかった

何かが、心の真ん中に落ちた気がした。足先が冷たかった。いつもの何倍も冷静になって相槌を返した。そっか、それは、そうだね。うん、それで正解だよ。その子今は元気? そっかよかった。

もう、誰の何に当たることもできない。二度目の失恋。
こんなに実感することがこれから先あるだろうか。私が見ていた景色とあなたが見ていたそれとでは、あまりに違いすぎていた。私がふられた本当の理由。

きっとその出来事がなくても別れてただろう。相談相手にすらなれないのだから。
ただ私は何も知らなかった。知ろうとすらしていなかったのかもしれない。本当に、本当に、私は何も知らなかった。