五年前の自分に言いたい。
「本当に本当にごめんなさい」

私は五年前鬱病になってしまった。自分のことが大嫌いだった。この世に必要のない存在だと思っていた。

限界が来た。気づけば言葉を跳ね返す精神力がなくなっていた

私は幼い頃からバレエ界で世界トップに登り詰めたい大きな夢を持っていた。そのために周りより若いうちにプロバレリーナになることを決心した。だが、想像以上に過酷なプロ生活が待っていた。舞台に出る度に楽屋や観客から批判を浴びた。

「実力不足。プロにふさわしくない」
「みんなの足を引っ張っている」
「痩せすぎて気持ちが悪い」
面識のない方がわざわざ楽屋に批判をしに来ることもあった。

一年間は自分を鼓舞し耐えた。今頑張れば夢は叶うと自分に言い聞かせた。
がついに限界が来てしまった。気づけば言葉を跳ね返す精神力がなくなっていた。一つ一つの批判が深く心に刻まれていった。

「生徒みたい」
「素人からみても全然動けてない」
「下手」
舞台に出る度に心ない言葉に心が削られていった。

ゴールに向かっていたはずが、どんどん遠ざかっていく感覚だった

私はこんなに努力してもやはり下手なんだ…。
ここに必要のない人間なんだ…。
ゴールに向かって走っていたはずが、どんどん遠ざかっていく感覚だった。
そして私は食欲も失い、睡眠障害に悩まされついに鬱病と診断された。

私は当初その診断を受け入れられなかった。少し前まで夢を持って頑張っていた私がそんなはずがないと思った。
「いいえ、私は鬱病ではありません」
そう医者に言い返したのを覚えている。数週間後に診断結果を少しずつ受け入れ、治療を始めた。

その後半年間は何をしてても自分が嫌いだった。今では考えられないほど繊細になっていた。例えば普段の生活でもメニューを読み間違えるなどのちょっとしたことで1日中自己嫌悪に陥ってしまった。

どこかで諦めていない自分がいた。自分なりに一歩ずつ進んでいった

だが、なぜかバレエは辞めたくなかった。練習をしたい気持ちにはなれなかったが、どこかで諦めていない自分がいた。

少しずつ活力が復活した頃には、自分をまた好きになるために出来ることを探していった。
体がだるく行動範囲は狭くなっていたため、近所のデパートを散策し新しいファッションを楽しんだり、ホワイトニングをしてみたり、アクセサリーを作ってSNSで自慢したり、些細なことで自分への自信を取り戻していった。自分なりに一歩ずつ前へ進んでいった。

半年後には人が少ない練習場所を見つけ、家でも自主練を再開した。少しずつまた夢へ走り出せていた。
それから3年後には名誉ある賞を頂き、現在は順調にトップへの階段を登っている。舞台上で毎週笑顔で堂々と踊っている自分がいる。

一時は周りの批判に負けてしまったのは悔しいが、夢を諦めなくて本当によかったと思う。今振り返ると『批判をしている側の気持ち』は『自分の持っている夢への気持ち』に比べると全く重くないものだと思う。なぜそんなものに負けてしまっていたのか。

五年前の私に伝えたい。
「辛い想いをさせてしまって本当にごめんね。頑張って乗り越えてくれて本当にありがとう」