私が彼との別れを決意したのは、4月から住む新居の契約に行った時のことだった。
何件か内見して物件を比べ、女性専用のマンションに住むことに決めた。父親を招くときには申請が必要なほど、ルールが徹底されているマンションだった。

電車で国際結婚や未来の話をした日から1年以上会えなくなるなんて

私と彼はいわゆる国際恋愛をしていた。彼は外国人で、日本とは1時間時差のある国に住んでいた。出会いは約3年前、大学1年生の私が彼の住む国を留学で訪れた時のことだった。付き合ってからこれまで、お互いの国を数回行き来した。彼の家族に会ったし、私の実家に彼を招くこともあった。

2020年の1月、私達は約2週間の日本滞在を終えて彼の帰国便に間に合うよう電車で移動していた。電車内で国際結婚の手続きについて調べながら、2020年の夏と冬の長期休みに一度ずつお互いの国を訪れ、両国で婚姻手続きをし、式を挙げようと話した。翌年には私がフルタイムで働き始めるため、時間がある大学生のうちに手間のかかる国際結婚のプロセスを済ませておこうと思っていた。

その日以降、1年以上も会えなくなるなんて思ってもみなかった。

特異な社会状況の中で出入国が厳しく取り締められ、婚姻関係にあるパートナーですら出入国が困難な状況となってしまった。

それから1年が経った2021年の1月、わたしたちは今の関係性について、これからについて話し合った。終わりの見えないこの社会状況の中で、希望を持ち続けることができなかったのは私の方だった。将来どうなるのか、いつ会えるのか分からない中で彼への気持ちを保ち続けるのは難しかった。

共通の時間を「長く続けたい」から、「いつまで続くんだろう」に

3年という長い付き合いにもかかわらず一緒に過ごした時間が短く、共有できる思い出が少なかったことから、いつからか私たちの会話は挨拶と「今日どうだった?」「家族は元気?」というワンパターンなものになっていた。

「このままじゃまずい」と、一緒に本を読んで感想を共有したり、オンラインで映画を観たり、言葉を教えあってみたりと努力した。でも、どれも長くは続かなかった。「長く続けたい」という気持ちより、「いつまで続くんだろう」という気持ちのほうが大きく膨らんでしまっていた。

最後に会ってからというもの、「彼と一緒にいたい」という気持ちがだんだん薄れていっていた。彼の魅力だと思っていたところが魅力的だと思えなくなっていく感覚は、自分自身でも理解しがたかった。恋愛感情が、終わりの見えない陰鬱とした社会状況によって、そして就職活動を経て見えてきた「現実」というものによって、だんだんと削ぎ落されていった。

彼のことは好きだし、素敵な人だと思うのに、本当にこれからも一緒にいたいのかと考えたとき、言葉に詰まってしまった。だんだんと、本当に彼のことが好きなのか、自信がもてなくなっていった。

結婚を考えていた私たちが、別れを迎えるなんて思ってもいなかった

2021年2月、私たちは別れを選択した。悲しかった。でも、それ以上に不思議だった。1年前に結婚を考えていた私たちが、こんな形で別れを迎えることになるとは思ってもいなかった。彼との写真も、彼が贈ってくれたテディベアも、日本時間と彼の住む国の時間を同時に表示できるよう設定したスマホのディスプレイも、ずっとそのままだ。

私の心のコップにはまだ彼への気持ちが少し残っている。それでも、そのコップをひっくり返して空にしたいとは思わない。時間をかけて、コップに入った気持ちがが静かに蒸発していくのを待ちたいと思う。

別れてしまった今でも、彼はやっぱり私にとって大切な人だ。それぞれの道を行くことを決断したけれど、それでも、彼には幸せになってほしいと心から思っている。私自身も、彼ありきの将来ではなく自分自身がどう生きたいのか、何をしたいのかに向き合って自分の人生を生きていきたい。