「あいつは写真を撮るために被写体の男に会ってた。今でも嫌いだけど、パズルみたいに足を絡めて抱き合って寝るのが好きだった。」深夜2時、お酒が彼の本音を引き出した瞬間。彼がくれたプレイリストは彼女のためのプレイリストだと思い知った。

たわいもない時間が心地よく、恋人じゃなくても十分だったのに

彼とは大学からの友人で、授業終わりにはお酒を飲みに街へくり出す仲だった。元カノの話、最近会っている人妻やナースとの進捗状況について彼は丁寧に教えてくれる。特に元カノには未練があるらしく、カメラ好きな彼女が出会い系アプリを利用して男の人に会っていることが気に食わないと嘆いていた。

音楽好きで、猫背な彼がタバコを吸いながら見せる可愛いえくぼ。彼が女性に可愛がられるのも納得ができた。どこか不思議で可愛くて守ってあげたくなる、そんな人だから。卒業が近くなるにつれて、距離はさらに近くなり、彼の家に足を運ぶことが増えていった。
半分ずつ分け合った近くのケーキ屋のショートケーキとフルーツタルト。二人で見るちっとも面白くない映画。たわいもない話をしながら読む雑誌…。恋人じゃなくても十分だった。

でもあの日、私の運命は狂ってしまった。「付き合おっか。」不意に彼がそんなこと言うもんだから、突然のサプライズに私は舞い上がった。彼の好きな音楽に、彼の服のにおい、腕の中のあたたかさに包まれて、心地よい。
私と付き合おうと思ったきっかけや、今後のデートの予定なんかを決めて、彼はその日、私の彼氏になったのだった。

彼が作った「君のためのプレイリスト」が何よりもうれしかった

私の彼氏は、私のバイトが終わる夜10時になると原付で迎えに来てくれた。料理上手じゃないくせに、私の大好きな麻婆豆腐も作ってくれた。理由もなく会えて、私の美味しいよの一言に嬉しくなって見せる彼のえくぼが愛おしかった。

唯一気にかけていたことといえば、彼氏のアルバイトについて。彼はお金を貯めるため、バーのバイトを始めたのだが、仕事が終わるのはいつも深夜2時。バーに来る常連さんに付き合い、酔っぱらっては仕事終わりに、私に電話をかけて甘えてきたのだった。

「俺、好きな人のためにプレイリスト作るのが好きなんだよね。今度はお前のために作るから待ってて。」音楽に精通していない私ではあったが、私のためのプレイリストという事実が何よりもうれしくて、電話越しに照れてしまった。

後日、彼は本当に例のプレイリストを作った。80年代のシティポップのような音楽から、ゆったりとした曲調の洋楽まで計10曲以上が詰まったプレイリスト、その名も「Para ti Playlist」。メキシコ好きな彼らしいスペイン語でのタイトルだった。翻訳してみると君のためのプレイリストという意味らしい。
彼の家に向かうまでの道、バイト先までの道、近くのコンビニまでの道。私のためのプレイリストは、私の日常に溶けていった。

深夜2時の悪夢。私に作ったプレイリストは彼女を忘れるためだった

サプライズはいつも突然やってくる。この日の深夜2時は、私にとって悪夢だった。友達の頃から耳に胼胝ができるほど聞かされていた元カノの話なのに胸が痛い。
今まで聞いたことのなかった元カノとの性事情についても、この日の彼は私に熱弁した。その時初めて「Para ti Playlist」は彼女のためのプレイリストだと知った。

元カノの話、元カノとの写真、元カノの服。あの子の想い出は彼にまだ染みついていたのに私は幸せばかりに目を向け、見たくないものは目に入れてこなかった。突然彼女の存在が私の目の前に現れたんじゃなかったはずなのに。
公園で、彼に別れようと告げた時、彼は驚きもせず、私の荷物の引き渡しについて淡々と話した。
彼は、彼女を忘れるためにプレイリストを作った。彼は彼女を忘れるために私を消費した。
でもあのプレイリストの音楽はいまだに忘れられないのだから皮肉なものだと思う。