「俺とAさんを友達にしてくれたら。」というメールの文が、彼との最後のやり取りだった。
 私には高校生の間想いを寄せていた人がいた(以下、B先輩と記す)。B先輩は私の1つ年上で、部活の先輩だった。私の入部をきっかけに出会い、気さくな性格に惹かれ好きになった。
 私が部活に入部したのは1年生の冬のはじまりであったのだが、B先輩は私のことをもっと前から知っていたらしい。私たちは住んでいた自治体が同じで、よく図書館や塾なんかを利用していたし、学校へ行く電車も同じものを使っていた。
そのため、B先輩が一足先に私を見つけてくれていた。いつも遅刻ギリギリの私は、学校に間に合う最後の電車で登校していたのだけれど、B先輩が乗っていることを理由に、それよりも2本前の電車で登校するようになった。そこにはAさんも乗っていた。

背が高く、華奢で美人のAさんと、仲良くなりたいと思っていた

 Aさんは私の中学からの友人で、背が高く華奢で美人、成績もいつも私の一歩前(実際には何歩も前にいたかも知れないが)にいるような子だった。中学校で同じクラスだったのは2、3年生の間だったが、1年生の時からなんとなく惹かれていて、同じクラスになったときは仲良くなりたいと思い、積極的に話しかけたりした(名簿順も並んでいたため、最初の席の段階で話しかけられた)。
中学2年生の私たちは省かれないことに必死だったのかもしれないが、最終的には部活が同じ等で、もともと仲がよかった間柄での結束ができてしまい、Aさんとはクラスメートのひとり程度の間柄になった。
しかし、卒業するころには同じ高校を目指す仲間として、なんとなく声を掛け合ったり、意識し合ったりしていたと思う(私の思い込みかもしれないけれど)。
 高校に入ってからAさんとは違うクラスになり、関わることが減っていたのだが、1年生の冬頃、数学の補習があっていつもより2本早い電車で登校する機会が増えた。最寄りのホームにはAさんの姿があった。電車の中でAさんはB先輩の話をした。
「あの人、この前急に話しかけてきたんだよ。演劇部の子でしょって。なんか怖いな。」
この時は、初対面なのに電車の中で急に話しかけるなんてB先輩ってやっぱ変わってる、くらいにしか思わなかった。
同じ電車に乗ってるの、理由がないはずなんてないのに。

1年の冬に出会って好きになってから、B先輩に3回告白した

 1年生の冬のはじまりに出会って好きになってから3年生の終わりまでの間、私はB先輩に3回(正式なやつを3回、それっぽいセリフは数えきれないほど)告白をした。
1回目は2年生の初夏、「好きです。」たったそれだけ。俺なんかじゃなくて、付き合うならCとかにしろよと、同じ部活の先輩を勧められた。好きであることを知ってほしい、ただそれだけであったから、振られても特に悲しくなかったし、諦めるなんて概念もなかった。しかしただぼんやりと、誰かと付き合いたくて告白したんじゃなくて、あなたを好きだって知ってほしかった。だから、俺なんかじゃなくてCを選べとの答えは、伝わっていのではないか、そんな感触を受けた。
 2回目は2年生の終わり、B先輩が卒業するとき、校門で待ち受けた。この時は伝えたいことをしっかりと手紙にまとめた。ただ好きとか、付き合いたいとか、そんなことが伝えたいわけじゃなかったから。
しかしこの時もまた、俺なんかじゃなくて、Cを選べとの答えが返ってきた。そして校門から去っていった姿を見送って、もう二度と会えないかも知れない切なさで泣きつぶれた。前回告白したときはどうってことなかったのに。
 3回目は3年生の終わり、私が卒業するとき、メールで伝えた。B先輩は浪人したため、この1年も同じ塾に通っていた。本当は会って伝えたかったけれど断られた。好きになってから2年と数か月の間、ずっと何を伝えたいか、その真意はうまく言葉にできずにいた。

好きなこと、あなたはこんなにも愛されるていることを伝えたかった

私にとって告白は、好きであること、あなたはこんなにも愛されるている、だから自信を持ってほしい、そんな感情を伝えるすべであったのだと思う。こんなにも愛されているって、どんなにも?それを探し続けた2年と数か月だった。
最後のメールでもB先輩はCを選べといい、そして、比喩的にAさんを好きだといった。最後の最後で。思い返せば、B先輩が同じ電車に乗っていたのも、もしかしたら出会った当初に気さくに話しかけてきたのも、全部Aさんと近づくためだったのかもしれない。
そしたら私、長らく邪魔してしまった。どれだけ考えたところで答えが帰ってくる話ではないけれど、実は少しだけ気づいていたけれど、気づかないふりをしていた。本当に気づかないふりってできるもんだ。
 その後、無事に大学に合格した私たちは(Aさんも)それぞれ別の場所に散らばっていった。現在私にはとても仲の良い恋人がいて、B先輩に対する恋愛感情はない。
しかし、当時の私の想いは、その真意は伝わったのか、Cでも他の誰でもない、ただあなたが好きであったということが、こんなにも愛されていたのだということが、伝わったのか、いつか私が結婚する前にもう一度だけ会って、B先輩の口からその真相を確かめてみたい。