冬花火。
初めてふたりで見たのは、わたしがまだ18で、彼がもうすぐ20になる冬だった。
昼間に立ち寄った雑貨屋で、ふたりで割り勘をして買ったブランケットに包まる。ブランケットの中でたまに触れそうになる手元がもどかしく、そんなことを考えている自分が恥ずかしい。
緊張で火照る身体を…とは冗談でも言えないほど、霜月の夜の土手は冷たく、わたしの指先の感覚を奪っていた。
「あのさ、おれ…」あの時彼がなんと言ったか、あまり詳しくは覚えていない。ただ、わたしは気づいたら涙を流していて、帰り道は、やけに機嫌のいい彼と手を繋いで帰ったということだけは覚えている。
繋いだ手の指先にじんわりと感覚が戻ってくる頃には、花火はわたしにとって冬の一部になっていた。
似ていることを喜んでいたのは、わたしだけになっていた
人前で大人しい隅寄りなわたしと、お調子者でいつもみんなの中心にいる彼。大勢でいる時、わたしたちはいつも違う場所で、それぞれ違う時間を過ごしていた。
でも、わたしたちはよく似ていた。
やり方、見せ方は違うけれど、どこかにある根っこのところで同じことを感じたり、考えたりしている。そう感じる瞬間が心地よかった。
好きなお菓子も、お笑いの好みも、行ってみたい場所も、最近気になるお店も、ふたりの生活の中で、同じことを考えて同じように笑い合う時間が何よりも楽しかった。
しかし、似ていることを喜んでいたのは、いつしかわたしだけになっていた。
彼は、わたしを見ていると、自分の嫌いなところを目の当たりにしているようでいやだと言った。それと、もう好きではなくなったと言った。
胸の辺りが詰まるような感覚のせいで、声が出せなかった。
いや、本当は返す言葉が見つからなかったのだと思う。自分の全てを否定されたような気分だった。
でも、なんとなく彼の言うこともわかるような気がした。
良いところだけでなく、悪いところも似ているからこそ、相手が何も言わなくても何を考えているのかある程度は想像できるからこそ、彼は苦しかったのだ。
わたしの気持ちは、結局わたしにしか向いていなかった
彼は、自分の気持ちが変わっただけだから、わたしは何も悪くないとも言った。しかし、わたしはそれを聞いてはっとした。
思い出したのだ。彼は普段素直なところが愛らしい人なのに、大事な時は何も言わない人だったということを。
そして気づいた。わたしは彼のことを全て分かっていたようで何も分かっていなかった、きっと分かろうともしていなかったのだと。
わたしの気持ちは、結局わたしにしか向いていなかった。彼はわたしよりも先にそのことに気づいた。
最後にふたりで見たのも花火だった。
冬ではなく夏だったし、地元の小さな夏祭りだったけれど、浴衣を着て、ふたりで花火を見た。少し前のわたしなら、想像しただけで気持ちが弾むような時間だったのに、わたしたちは目も合わせず、ただただ打ち上がる花火を見つめるだけだった。
家の小さな窓の黒に、そっと花火が灯った
わたしは今年で21になった。
立ち止まると、冷え切った耳が風に当たって痛い。でも、なんとなくあの日よりは寒くない気がした。
さっきコンビニで買った缶コーヒーの温度を両手で盗みながら、あの日の帰り道をつま先でなぞる。
ふと顔を上げると、日の暮れきった道に知らない家が並んでいた。
歩き出そうとつま先をあげたその時、左手にあった家の小さな窓の黒に、そっと花火が灯った。
振り返った先の光は、まだ暖かいままで、わたしの頬をゆっくりと降りていった。