少し昔話をしようと思う。恨みつらみと感謝のお話。

それは社会人1年目の初夏の話。その時の彼氏は年上だったけど学生だった。面白い人だった。結婚したいと思っていた。
実家に帰っていた私は、夜彼に電話した。学生と社会人のすれ違いを起こさないよう、会えない時間を埋めるための電話だった。その頃から私の電話越しの声は優しさを失ってたとは思う。電話の向こうが沈黙になった。こころなしかスマホすら重たい。

「…なんか言いたいことある?」

こんなこと聞かなくてもよかった。私がまた違う話題で間を埋めてしまえばそれまでだった。だけど聞かずにはいられない、何かが働いた。

「……別れたい」

別れたいと言った唇も、瞳も、ありありと想像できた。3年も付き合ってたんだから。でも私はもう、そこでごねるほど少女じゃなかった。

学生時代は、私と付き合ったこともない男の先輩にメンヘラ認定を食らったこともある。嫉妬深いしメンタルの浮き沈みが激しいのは確かだから、間違ってなかったけどそれはそれでむかついた。でももう私は働く女性だ。大学もメンヘラも卒業したのだ。

別れたいという言葉に多分、なんで?とは返さなかった。理由は聞きたくなかった。
その後も半年ほど連絡をとりあったり、ご飯に行ったり、時には体の関係を持ったりもした。そこから今日まで、一度も連絡をとっていない。会っても無視している。

クリスマスイブに彼のスマホで見たもの。断じて、許せない

ふられて時間が経ってから無視するようになった理由を話すには、少し時間を巻き戻す必要がある。

付き合って3年目のクリスマスイブだった。25日のデートにむけ、イブはお泊りをした。彼が眠ったあと、私は禁じ手を使った。スマホのロックを解除した。

何気なくとか、直感が働いて、とかそういうのではない。それまでが怪しすぎた。とある女の子と異常に距離が縮まったのを感じた。なにもイブに見なくてもよかった。だけど見ずにはいられない、何かが働いた。

その子とのLINEを追って後悔した。やっぱり見なきゃよかった。何が傷ついたって、セックスしていた形跡もだけれど、「すき」という言葉が飛び交っていた文面だった。そのときは本当に、彼とその女の死すら願った。
それでも別れるという選択肢は私にはなかった。今別れたらあの女の思うつぼだろう。きっとすぐ付き合うに決まっている。

そんなことは許せない。断じて、許せない。

嫌悪、憎悪、意地。あんなに黒い感情に支配されたことは、あとにも先にもあのときだけだろう。

自分を大切にするようになって、やっと「要らない」と思えた

この事件があってふられるまで半年、ふられてから無視するようになるまで半年。無視するようになってから今日までもう3年経った。

彼を無視するようになったのは、何より大切な”私”という存在に気づいたから。浮気して私を傷つけたくせに、別れたいという言葉でさらに私を傷つけて、その上まだ関係を持っているなんて、どういうことだ、と。大人になって、自分を大切にするようになって、やっと「要らない」と思えた。

今振り返ると、本当は3年目のクリスマスイブのあの夜に終わっていたのだと思う。この時点で私は彼を愛していなかった。私が彼に対して抱いていたのは愛じゃなくて、彼を手放したくないという意地だった。今まで一緒にいたから、これからも一緒にいる、というだけ。現状維持。変化を望まなかった末路だ。

今でもその彼のことは嫌いだし、楽しかったことや好きだったところがひとつも思い出せない。だけど、感謝はしている。あの一件があって人間として成長できたし、今は別の人と付き合って同棲してかなり経つ。

大切な私という存在を気づかせてくれてありがとう。
あんな不幸な恋愛を教えてくれてありがとう。
別れを切り出してくれてありがとう。
あなたが私をふった理由は知らないけれど、あなたと別れたから、今とても幸せです。