「呪いだ。」
朝目が覚めて思わずポツリと口にしてしまった。
先生が夢に出てきたのである。
ここ数年めっきり姿を消していたはずなのに、のこのこと出てきやがった。
誰にも打ち明けず、一人で温め続けた青春時代の密かな恋
先生と出会ったのは今から7年前の高校生の時の授業だ。
ひと目見た時にはもう遅かった。物凄い引力で、あっという間に好きになってしまったのである。私の理想をこれでもかと全て詰め込んだような人だった。
そこからの1年間は、それはそれは天国だった。
修学旅行より体育祭より何よりも楽しかったのは先生の授業。
進学校で落ちこぼれだったはずの私は、先生の教科の成績が上昇するにつれて他の教科もうなぎ上りに成績が上がった。
全ては先生に褒められ、認められたいがためである。
なんと単純な生徒だろう。
先生の前では、あなたの為ではないですよというすました顔をしながら裏では猛勉強し、他の幼い生徒と私は一味違いますよ感を出そうとするあまり、「あまり笑わない生徒」と先生から認定されてしまうようなアホっぷりであった。
それでも自他ともに認める冷静な性格の私は、当時よく自分のことを分析し、大丈夫大丈夫と気持ちを落ち着かせていた。
先生を好きになるなんてアホらしい、子供ならよくあることで大人になれば甘く可愛い思い出になるだろうと、なんともまあ楽観的に考えていたのである。
友達にも家族にも誰にも打ち明けず、私はひたすらこの恋を1人で温め続けた。先生と付き合いたいとか、どうにかなりたいとか、そう言ったことを望んでいたわけではない。教師としてだけでなく、1人の人間として尊敬していたので、ただただこれからの私の人生にも、何らかの形でこの人にいて欲しいと思っていた。
募る恋心が怖くなった私は、先生への想いを心の内に封じ込めた
その内あまりに募る恋心に、「このままではマズい。先生のことが好きすぎて普通の恋愛ができなくなってしまう。同年代を好きになった方が幸せになれるはず。」と恐れを抱いた私は、先生から逃げる意味も込めて地元から遠く離れた大学へ進学した。
大学生活はとにかく刺激的だった。
大学進学後1年目までは地元に帰った際に先生に会いに行っていたのだが、その内、「あれ、会わなくても平気なのでは。」と根拠のない自信に見舞われ、会いにいくのぱったりと辞めてしまった。
連絡先を聞けたであろうタイミングもあったが、あえて聞かなかった。完全に先生への恋心を思い出にできたと思い込み、勝手に勝利宣言をしてしまったのである。
7年越しの「再会」は、私の心を離さないあの人の呪いのよう
そんなこんなで大学を卒業し、地元を離れたまま就職した。
社会人3年目になり、学生時代から付き合っていた彼と結婚もした。
結婚のあれこれと引っ越しが終わり少し生活が落ち着いてきたからであろうか。
ひょっこり「やあ。」と先生が夢に出てきたのである。
夢の中で私は数年ぶりに先生と再会し、近況を報告し合い、他愛もない話をして楽しそうに笑っていた。
目を覚ました私の心は震え、胸が痛いほどギュッと締め付けられた。
会いたい。先生に聞いて欲しい話がいっぱいある。素直にそう思った。
できうる限り最大限の距離をとり想いを封印し続けてきたつもりだったが、完全勝利とはいかなかったようだ。私の心のどこかにはまだ先生がいる。7年経ってもまだ私を離してくれない。呪いだ。
でも私が先生に会う術はもうない。どこにいるのかさえ分からない。
この呪いを解く方法はあるのだろうか。解かれる日は来るのだろうか。
私は今まで先生から逃げていただけで、もっと向き合う必要があったのだろうか。
いや、そんな事言ったって向き合いようもないだろう。
こんな事誰にも言えない、聞けない、馬鹿にされる。
自分ですらそう思うのだから。
「いい加減にしてくれ。」と思いながら何事もなかったような顔で今日も私の1日を始めるしかないのである。