私には「恋」がよく分からない。物心ついたときから、少女漫画も恋愛ドラマも苦手。恋バナなんてもってのほかだ。
会社の同世代の同性は、なぜか総じて「恋バナ」が好きである。「好きな人いないの?」「カレシできた?」「どんな人がタイプ?」エトセトラエトセトラ。どれに対しても愛想笑いで濁してきた。
恋愛経験ほぼ白紙の私が、半年と少しの間付き合った恋人
そんな私だが、半年と少しの間だけ、恋人がいたことがある。
相手は大学の先輩で、私の二つ上の女性だった。
彼女は、趣味の合う人だった。私が社会人になって二年目の冬、ふとしたことから電話をするようになり、毎日私の退勤時間(私は会社から車で二時間の場所に住んでいる)はずっと、彼女と電話をしていた。
彼女の性的指向はストレート(異性愛者)で、私は自分の性的指向をよく認識できていなかった。性別問わず、素敵だなと思うことがあるが、それが「付き合いたい」に繋がることはなかったからだ。
電話を続ける中で、「この人が誰かに取られるのは嫌だな」と漠然と思い、告白をした。あなたを取られたくないので、と付け足すと、彼女は笑いながら承諾してくれた。私の恋愛経験はインクのシミがポツポツと付くくらいで、彼女は初めて人と付き合う、と言っていた。どちらも恋愛経験はほぼ白紙だった。
待っていたのは、甘くて蕩けるような恋…なんかじゃなかった
最低なことに、私は付き合い出した途端「別れたい」と思うようになった。彼女の束縛が、思ったより激しかったからだ。
「何で昨日電話してくれなかったの」
自分を庇うようで恐縮だが、前日私は同僚との飲み会で帰るのが遅くなった。そして「電話できる?」と私は確かに連絡をした。「既読が付かなかったから、電話をしなかったのだ」と彼女に言えば、「でも電話してくれれば良かったでしょ。寝ていただけなんだから」。
私は彼女の睡眠を妨害する趣味はない。そこまでして話すのは、お互いに疲れるのが目に見える。
SNSに友人と出かけたことを載せた。すぐさま「何でそうやって遊んだこと載せるわけ」と電話が掛かってきた。友人と出かけることは伝えていた。が、何かが気に食わなかったのだろう。
友人と出かけることを他人に公開して何が悪い。「そんなんならもう別れる」と言われ、私は渋々謝った。まだ付き合って三ヶ月しか経っていなかったから、別れるのは勿体ないと思ったからだ。これは、私が悪い。
恋愛というものは、甘くて優しくて蕩けるようなものだと期待していた。現実はそんな甘いものじゃなかった。恋愛が更に苦手になった。
彼女が言ったから別れた、なんてずるい私。その言葉を期待してたのに
告白してから半年。私達の関係は次第にギスギスしていった。何を話しても喧嘩になった。
「別れてください」
彼女から連絡が来たのは、盆近い、夏の暑い日。正直私はホッとしていた。
「あなたがそう言うなら仕方ないね。これ以上続けるのは、お互いしんどいね。別れよう」
彼女が「別れたくない」と言われるのを期待していたのは分かっていた。そうやって試すようなことが、過去何度かあったからだ。しかし私は、あなたが言ったのだからと言わんばかりに、別れを受け入れたような態度をとった。ああ、これも私が悪い。
それ以来、彼女とは一度も連絡を取っていない。
いつまでもおもちゃをねだる子どものよう。私には、恋が分からない
思い返すと、やはり最低なのは私だ。
私が彼女を「取られたくない」なんて思ったことが、そもそもの間違いだった。告白さえしなければ、私達は良い友人のままでいられたはずなのだから。もう少し私は、彼女に寄り添うべきだった。
私が「恋」を分からないのは、私がいつまでたっても、おもちゃをねだる幼児のままだからだ。欲しい、自分のものにしたい。けれど、手に入れたらもう要らない。
こんな私はこれから、「恋愛」ができるのだろうか。今まで「恋バナ」をしてこなかったことが悔やまれる。私のこの経験が、一般的なものなのか、はたまた変わったことなのか、どう言えば正解だったのか、何一つ私には分からない。
せめて彼女だけは、これから幸せになってもらいたい。なんてのは嘘だ。私は彼女の幸せに手を叩いて喜べるような、そんな人じゃない。
私は一人が好きだ。束縛されないし、全て自由だから。そしてその上で、いつか王子様、それかお姫様が現れることを、いい年して願っても良いだろうか。やはり私は、幼稚だ。
彼女の幸せはその次に、どうぞ。