私の初恋は高校の先生だ。
個人懇談の質問用紙に「好きなこと:ラジオ」と書いたことから、先生も同じラジオ番組が好きだということを知った。
その日の夜、そのラジオ番組に「今日この番組が好きな先生に会って、すごく盛り上がりました。先生聴いてる?」と早速メッセージを送るとすぐに紹介され、その後番組内で「聴いてるよ、テスト勉強頑張りなさい。」というまさかの返事が来たのだ。
その日をきっかけに先生との距離が少し縮まった気がした。クラスでも学校でも馴染めていなかった私には、希望の光だった。 学校で人と話せることが嬉しくなった私は、よくある流れで気づいたら先生を好きになっていた。
先生の特別な生徒になりたくて必死だった。恋をした乙女は強かった
その後の自分は、先生にとって特別な生徒になるべく必死だった。
まず、コンタクトにした。小学生の頃から伸ばしていた髪も先生が好きだと言うショートカットにした。先生は化学の担当だったため、嫌いだったが化学も選択した。放課後は質問があると度々先生の部屋に質問に行ったり、そのついでに雑談をしたりした。
そして、教室の隅で丸まっていた私は高校2年の春に生徒会に立候補した。
半年後、生徒会長になった。高校生の私はいつだって先生に認められたくて、特別になりたくてまっすぐ前を見ていた。恋をした乙女は強かった。そう思う。
だがしかし、高3の9月、先生は突然学校からいなくなった。
原因は公表されず、心ない噂がたくさん流れ、そのたびに胸が痛くなった。職員室や化学の準備室、ホームルームの部屋や部室・・・。どこを探しても先生はやっぱりいなくて、いないとわかっていても無意識に先生を探していた。私の生活の中にこんなにも先生の姿があったのだと驚いた。先生の存在の大きさを実感して、またさらに寂しくなった。
でも、私は必ず先生は戻ってくると信じ、これまで通りの生活をした。先生がいつ戻ってきても胸を張って会えるように。卒業式に完璧な私で告白できるように淡々と準備を続けた。先生があの日、私の声に応えてくれたから、今度は私が先生の期待に応える番だと思った。
「先生がずっと大好きでした。」先生はもう帰ってこないことを知った夜、私は告白をした
そして、半年後。先生は卒業式にも戻ってこなかった。
私はせめてもと先生へのありのままの思いを手紙にし、ほかの先生に手紙を託しに行った。先生と仲が良かったその先生は「まぁ卒業もしたし、教えてあげる。先生は過労で自殺したんだよ。」と顔色一つ変えずに言った。
人が死んでもこんなもんなのかと思った。大人はひどく冷たく残酷だと思った。
その夜、私はラジオにメッセージを投稿した。何度も何度も書き直したから、今でもはっきりと覚えている。
「今日、高校を卒業しました。もう先生の生徒ではなくなったので言います。先生とはこの番組をきっかけに仲良くなりましたね。そんな先生に卒業の時に先生に言おうと決めていたことがあります。私は先生がずっと大好きでした。先生、聴いてますか?聴いてたらまた、聴いてるよ!って言ってくださいね。」
DJが「おぉ!大胆な告白だ!いいね、いいね青春だね。ぜひ先生聴いてたらメッセージ送ってくださいね!」と言っていた。なんか、そのラジオを先生が聴いてくれている気がした。
先生を想って努力した私は幸せだった。恋をして、失恋をして人は強くなるのだ
私の初恋はラジオからはじまった。
告白は直接はできなかったけど、後悔はない。結果的に振られたが後悔はない。
でも、私は幸せだった。先生を想って努力したことは、間違いなく無駄ではなかったし、今の自分があるのは先生のおかげである。教室の隅で何とか息をしていた私、胸の高鳴りをやる前から否定して前に進めずにいた私の背中を押して、可能性を引き出してくれた先生。
私は先生のようになりたいと、教育学部を選び春から高校講師になる。告白の結果は振られたままだけれど、これからも私は先生の背中を追う。
いつか、必ずもう一度真っ直ぐに先生に好きだと言いたい。今度こそ、私の目を見て返事を聞かせてもらいたい。それまで私は先生との思い出と先生の後ろ姿を胸に教壇に立つ予定だ。
恋をして、失恋をして人は強くなるのだと、私は今でも思う。