冬に恋人がいないのと、夏に恋人がいないの、どっちがしんどいだろう。
そんなことを考える自分がいやなやつだと思いつつも、大学から家まで一人で乗る電車の車窓からぼんやりと眺める田んぼの景色は人に自問自答させる力でもあるのか、無意識にそう考えてしまう。

夏に付き合うのと、冬に付き合うのどっちがいいんだろう

打算的で小賢しい自分がいやになると同時に、清楚で賢こそうな顔してそんな悪いことを誰にも言わず一人ひっそり考え込む自分の小悪魔さに、ちょっとワクワクもした。

わたしは美的感覚に優れていて、ファッションセンスに定評があった。女子たちからは憧れられ、男子たちからは賞賛を浴びた。
それなりに器用であったためメイクもばっちりだ。シンプルに、大学内では見た目がよかった。三流大学で真面目に勉強もしてたから、しっかりしてる子というイメージもあった。

そしてわたしは、心の動きにどうやら人より敏感であった。たぶんあの人は私のことが付き合いたいと思うぐらいには好き/可愛いとは思うけど、付き合いたいとは思っていない、と異性が自分に向けてくれる好意がどんな種類のものかある程度わかることができた。
だから、わたしと付き合いたいと思ってる人のそばへ行き、そのトリガーを引けばあとは割とトントン拍子で付き合うことが出来る。いつでも付き合うことが出来る。
だから冒頭に戻る。夏に付き合うのと、冬に付き合うのどっちがいいんだろう????

すごく好きでも、あの人ともあの人とも体を重ねたくはなかった

でも、この問いの答えは毎年なんとなく決まっていた。冬にはクリスマスがある。クリスマスはどうしても男性側からの誘いをかわすことができない。だってクリスマスだから。体を重ねることを断る理由がない。だってクリスマスだから。
体を重ねたくは……….ない。あの人ともあの人とも体を重ねたくなかった。すごく好きでも体は重ねたくなかった。体を重ねるほど好きじゃない、気持ちわるい。わたしの体や精神の内側の侵入者になって欲しくなかった。わたしの内側に侵入できる人はもっと特別な人で、本当に心が許せる人で、もっともっと愛している人。

でも、夏は夏で男性側のテンションが上がっている。夏休みは長いから旅行にだって何度も行ける。旅行中に拒んだら拒んだで、その関係性はそんなに長くは続かないことはわかっていた。

わたしが振る理由・振られる理由、それはどちらも同じだった

付き合ってきた人たちはみんないい人たちだった。わたしに優しく、わたしのことが好きで、ダメ男クソ男と言われるようなことに何ひとつ当てはまっていない人たちだった。
でもやはり男性だもの。ずっと彼女と体の関係がないことには、いくらいい人でも耐えられないものがあるのだろう。

「彼女に拒まれ続けられるって結構つらいんだよ」そう言った彼の顔と声は今でも覚えている。
わたしはそれに何て答えたっけ。ごめんって謝ったかな。それとも苦笑いしただけだったかな。

わたしが振る理由・振られる理由、それはどちらも同じだった。
「わたしがカレをそれほど好きではない」と薄々気付き、そのことに痺れを切らして先に言葉にしたのがわたしかカレかで振った、振られたという形になる。