恋愛経験わたしが彼らをふる理由はいつだって同じ。

「愛されることに疲れたから」

二人で泊まるビジネスホテル。あえてアメニティの整ったラブホテルではなく、ビジネスホテルを選んだ。
少し前までは利便性を考えてラブホテル一択だったけれど、「する」ことが前提の空気感がなんだか嫌になってきて、最近はビジネスホテルが多くなった。
部屋に着くなり思い出したように、「喉が渇いたから水を買ってくる」とコンビニに出かけて行った。
寄り道が好きで、ちょっとした外出に時間がかかるのも、いつものことだ。
彼が浴びているシャワーの音を聞きながら、コンビニ袋の中を覗く。
喉が渇いた、と言っていたのに、水でもお茶でもない、甘ったるい炭酸。
頼んでいなくてもいつも買ってくる、わたしの好きなコンビニスイーツ。
はやくも包装ビニールが破かれ、口が開いたままの、ゼロワンの箱。

そのどれもがわたしのよく知ったものばかりで、覗く前から予想がついていて、まるで答え合わせをしているような気分になった。

惚れた方が負けとはよく言うけれど、本当は逆じゃないかと思っている

わたしは、彼のことを知りすぎてしまったし、分かりすぎてしまった。
だから、遠からず訪れる二人のお別れを、この人がどう感じるか、痛いほど分かってしまう。

彼のことを、嫌いになったわけではなかった。
わたしの良き理解者であり、お互いに気を遣うこともない。
けんかをすることも何度もあったけれど、そのたび仲直りしてきた。
ただ、少しずつ、少しずつ、会う回数が減った。会いたいと思う回数が減った。
会わなくてもわたしは平気だ、と思えるようになってしまった。

惚れた方が負け、とはよく言うけれど、本当は逆じゃないかとわたしは思っている。
惚れた方は自分の欲望のまま、愛したいだけ愛すればいい。好きだと言えばいい。飽きるまで尽くせばいい。

でも、惚れられた方は?

それだけの熱量を日々浴びて、返しきれないまま溢れていく。その熱さに、スピードに、追いつけない。いつのまにか、息苦しいほどに埋もれていく。
身にあまる愛が、嬉しいはずなのに、求めていたはずなのに、どうしていいか分からなくなって、すべて壊したくなる。助けて、と思う心がいて、そんなのはおかしいじゃないか、ともう一人の声がわたしを責める。
こんなにも愛されて、何が不満なんだ?何が苦しいんだ?

変わりたくないのに、同じままでいたいのに、そう思った頃にはもう変わってしまった

幸せだとはにかむあなたと、同じだけの気持ちで、心から幸せだと言えないこと。
大好きだよと何度も伝えてくれるあなたに、いつしか、わたしもだよと言えなくなったこと。
あなたの愛は変わらないのに、わたしだけが変わっていくこと。
変わりたくないのに、同じままでいたいのに、そう思った頃にはもう変わってしまっていること。

愛されて、苦しくて、でも傷ついてほしくなくて、傷つけたくもなくて、好きだった気持ちは本当で、思い出は鬱陶しいほど美しくて、わたしは結局愛され続けることを選んだ。

それからは、会うたびに逃げ出したい気持ちが大きくなって、それでも会わないときっと彼が傷つくことも分かっていて、会っても会わなくても、結局同じような日々だった。誰が悪いのか、誰か悪いのか、分からなかった。
あなたも、わたしも、ちっとも幸せじゃなくなっていたね。

ようやく別れを切り出した後、熱を出して3日間寝込むあなたは、最後までわたしの予想通りだった。

相手が変わっても逃げ出したくなる気持ちは相変わらずで、浮気をした

もうこりごり、と思っていても、気づけばまた同じような状況になっていて、こういうところは簡単には変わらないのだなと思う。
相手が変わっても、逃げ出したくなる気持ちは相変わらずで、浮気をしたこともあった。それを告白したこともあった。
打ち明けた時、言われたことは「僕のことを嫌いになったわけじゃないんだよね?」だった。こればかりはわたしも予想外で、うん、とか、まあ、とか、はっきりしない返事をした気がする。
「じゃあ良かった」とほっとしたように言う彼に、いよいよわたしは泣き出したくなった。

ああ、この人はこんなにも、わたしと離れることを望まない。こんな気持ちを知りもせず、変わらずわたしを愛し続ける気でいる。
そのあまりの恐ろしさに、わたしは今も逃げ出したい。