彼との出会いは、大学1年の初めてのバイトデビューを果たしたバイト先だった。そこで出会った同い年の彼とは最初の1年くらい、お互い顔の認識はしてはいるものの話をしたことがない間柄だった。
異性と普通に初めて話せて嬉しかった。彼と仲良くなったきっかけ
お互い同じバイト先で顔を合わせているのに、話しかけずにいたのは、まず私自身が、中学から大学まで、付属の女子校にエスカレーターで進学していたのもあり、男子と話す経験がないまま大学に来てしまったからだった。そんな異性との話し方がわからぬまま狭い世界を生きてきた私だから初めてのバイト先でもうまく異性と打ち解けずに過ごしていた。
私はいつしかバイト先では物静かなおとなしいキャラクターとして通っており、一方で、バイト先の彼は、いつも年上の男性の先輩たちと談笑して、楽しそうな様子で私とは違って馴染んでいるように見えた。そんな彼を、私はいつも楽しそうでいいなって思いながらも気にするそぶりを見せないようにして遠くから観察していた。
そんなある日、2年生になる前の春、バイトの業務に慣れてきた私はたまたま入った遅番のシフトの時、休憩で入ってきた彼と初めて二人きりになった。少しだけなら話せるかもと思って「お疲れ様です」と挨拶して、彼も私に挨拶を返した後「あれ?今日シフト?」って珍しそうに聞いてきて私の手元のシフト表を確認しに来た。確認ついでの少しの談話のつもりのはずが、話が盛り上がって、初めてそこで彼が同い年なこと、地元が都内で近いこと、たまたま今日が彼の誕生日で19歳になったばかりなことを知って異性の彼との初めてのおしゃべりが楽しく、異性と普通に話せたことが初めてで嬉しかった。それが彼と仲良くなった最初のきっかけだった。
今思うと、お話が楽しかったのは内気な私に合わせて話をしてくれていたのかもしれないなと思って、そんな彼のコミュニケーション能力の高さを感じる。それを機に彼と打ち解けることができて、LINEを交換してLINEでお話したり電話したりして初めて仲良くなった異性とのおしゃべりがすごく楽しかった。
彼女じゃないのに、彼女みたいに楽しい時間を過ごした
夏休みになったとき二人で遊びに行く約束をして、六本木の美術館に行って展覧会を見たり、お台場に行ってタピオカを飲んだり、観覧車に乗ったりして朝から夜まで楽しい一日を過ごした。勿論、私にとって初めて異性と二人きりのデートだった。私は彼の彼女じゃないのに彼女みたいに楽しい時間を過ごしてまた彼と遊びたいって純粋に思った。別れた後も電話で楽しくお話ししたりして、ずっと女子校だった私にとって青春を取り戻した気になってすごく楽しくって幸せだった。
夏休みの最後にはバイト終わりに新宿に飲みに行って二人でお酒の飲み比べしたりして二人共お酒が強いことがわかって、その後は同じバイト先の話をしたりして夜遅くまで飲んだ。私は割り勘のつもりでいたけど、その日の代金は彼が全部立て替えてくれた。奢られた経験がなかった私はとても嬉しかったけど、とても驚いてしまってどぎまぎした。帰り道では二人とも酔っていたのもあってノリで恋人繋ぎをしたりして、彼の手の大きさを感じた。クレープ屋台を発見して一つのクレープを二人で食べたりもした。帰りの電車は混んでいたから、私は彼のバッグの取っ手に捕まって、彼は私の捕まる手の上から手を握った。彼女じゃないのに手に触れてしまった、どうしようって家に帰ってから気づいた。でも、酔っていたしって気にしないふりをして、また彼と会う約束をした。
彼が私に粉をかけているように感じて、少し彼が嫌になってきた
次に会ったときは代々木公園で夜散歩しながら先日手を繋いだことを話して、私は「私たちはまだ恋人同士じゃないから手を繋ぐのはやめよう」と伝えてただ園内を歩いて散歩した。夜の公園は夏の終わりで、静かに鈴虫だけの鳴き声が響いていた。何か他にも伝えようにもうまく言葉が思いつかず、他愛のない話をして園内を2周したところで私たちはまた会おうねって言って、帰りの電車で梅のおやつを二人で食べて、彼が口を開けてきたので「あーん」をしてあげたりして、やはり友達の空気感ではないことしているなって思いながら、「私とあなたはなんだか姉弟みたいだね」と言って何事もなくそのあとは解散した。
そのあとは大学が忙しくて二人で会うことは出来ず、LINEでやり取りだけは続いていて、しばらくたってから彼と久しぶりに電話をした。その時の電話の彼の様子がなんだか元気がないように思えて、思わず冗談で「失恋でもしたの?」と声をかけた。彼の答えはまさかの図星でどうやら私と代々木公園で会ってからすぐに別の女の子に告白して付き合って1か月ほどで破綻してしまったらしい。私は彼の話を聞いているとの同時に彼に対して違和感を持った。私は結構頻繁に彼にLINEを送っていて、おそらく彼が彼女さんと付き合っている最中もLINEでのやり取りをしていて、なぜかわからないけど、「その子と付き合っている」ことをなんで私に教えてくれなかったのだろうと思った。なんだか、彼が私に粉をかけているように感じて私は少し彼が嫌になってきた。
もう以前の楽しい関係にならずに、友達のまま私と彼は終わった
それからあとに、2人で伊豆と熱海に日帰りで遊びに行ったりして、すごく楽しかったけど、晩御飯に些細なことで彼を怒らせてしまって、それをきっかけに帰りの電車で私がなぜだか涙が出てしまった。それを見た彼が私にキスをしてきて、その出来事が急だったため私の頭の中が真っ白になり、私は訳が分からなくなってしまった。日帰りのキスの事件があってから、私が彼に二人のこれからの関係を追及しても私と彼の間はその後進展がなく、そんな優柔不断な彼に私はやきもきしてしまい、私は彼に対して前よりも突き放すように接するようになってしまった。
そんな私に対して彼は「ブスだよね」って言うようになり、そんな子供っぽいことを言う彼に私は本当に嫌気がさしてしまったりして、もう以前の楽しい関係にならずに友達のまま私と彼は終わってしまった。今思うと私はシンプルに彼といる時間が楽しくてもっと二人で遊んで、友達以上の彼の彼女になりたかっただけなのに、彼の性格が私は許せなくてもうこの人とはないって思って私の中で彼を見限ってしまった。