人生で初めて告白した時の話だ。バレンタインデーにチョコを渡して告白した。小学生のときだった。
 その当時好きだった彼は幼なじみで、家族ぐるみで仲が良かった。2歳年上で、学校も違う。バレンタインチョコを渡そうにもその当時携帯をもっていなかったので相手に連絡が取れなかった。仕方なくチョコを作って渡したい、と母に相談すると、にやにやしながら彼と会う場をあっという間にセッティングしてくれた。
 ちなみにマカロンを作ろうとしたが、なぜかぺたぺたした薄っぺらいパンケーキみたいなやつになった。仕方がないのでチョコペンでドラえもんの落書きをして、クッキーだと言い張ることにした。

今告白したのになんで靴飛ばすん。ショックだけど私もやりたくなった

 いざ、バレンタインデー。私の初めての告白は、彼の家の駐車場で行われた。お互いの母親に見守られつつ、チョコを照れながら渡す。向こうも照れてくねくねしていた。「好きです」と言うと、彼は「うん」と言ってこっくり頷いた。
 その「うん」が何なのか私はいまいち分からなかった。僕も好き、の「うん」なのか、ただの相づちなのか。もしかしたら何か続きがあるのかも。そう思ってしばらく無言で待ってみた。相手もしばらく黙って立っていたが、急に駐車場の角まで行って靴飛ばしを始めた。
 靴飛ばしは、「明日天気にしておくれ」とか言いながら靴を飛ばす、あれだ。うそやん。今私告白したのになんで靴飛ばすん。かなりショックだったが、好きな人がやっていることって真似したくなる。私もだんだん靴を飛ばしたくなった。
 どうせなら思いっきり靴を飛ばそう。そう思って彼からかなり距離をとった。ソーシャルディスタンスくらい。2メートル。そこから思いっきり足を振りかぶって靴を吹っ飛ばした。たぶん、私はその後起きたことを絶対に忘れないと思う。

飛ばした靴が彼のほっぺにばちーんっ!!あ、死んだわって思った

 私が飛ばした靴が彼のほっぺにばちーんっ!!とあたったのだ。あんなにきれいに、すごい勢いで好きな人に自分の靴がぶち当たる光景を見たことがあるのは、たぶん私だけだと思う。その靴は買ってから一度も洗ってなくて、かなり香ばしい臭いのやつだった。あ、死んだわって思った。
 母親2人は世間話をしていたが、その光景を見て大笑いしていた。
 私はただ謝り続けた。彼は「いいよ」とほっぺを押さえながら言ってくれたが、目が許してくれてなかった。ちょっと涙目だったし。ほんとにごめん。
 後で知ったのだが、幼稚園の頃から、グラグラしているのになぜか抜けなかった歯が、私の靴の勢いで抜けたらしい。絶対嘘じゃん。歯医者行けよ、それは。だが、まあ、それくらい勢い良く頬を靴でビンタしたのだ。
 結局、その後彼のことを6年間好きだった。会うたびに告白したが毎回「あの靴、めっちゃ臭かったんだよね」という余計な一言と共に振られ続けた。最後の方は「ウザい」とまで言われて泣いたりした。でも、やっぱり好きだった。
 結局、付き合えなかった。
 風の噂で彼は医学部に入学したらしい。くっそ、惜しいことした。
 今でも靴とばさなきゃって思う。