彼の仕事への嫉妬、不意に感じる孤独、自覚のない彼への依存。
彼のことが大好きで、彼も私が大好きで。だけど自分に自信が持てなくて。
彼といる自分に劣等感を抱きいつか終わりがくるのかなという不安と、一緒にいられる幸せをかみしめながら過ごした、7ヶ月の物語。

恋愛に憧れがなかった私が初めて感じた真実の恋は、彼と生きる日々

はじめて感じた真実の恋だった。

大学2年生、キラッキラの夏休みが過ぎて秋学期が始まった。
6限目の講義を終え、同じサークルの友人が学校に車で迎えにきてくれた。
その助手席に乗っていたのが、彼だった。

背が高くて、目尻とほっぺがクシャッとなる彼の笑顔、初対面でも気兼ねなく話せる雰囲気をつくるのが上手な彼に、私のハートは迷うことなく恋愛スイッチをオンにした。
直感に素直な私は、早速行動に移す。授業中にグループLINEから友達追加を済ませ、友達と何を送ろうかとキャッキャしていたあの時間は、心が踊るようだった。

「〇〇サークル入ったんや!よろしく~(^○^) 今度一緒にラーメン食べに行こう」
美味しいラーメンを食べに行こうと話したことを思い出し、何度も文章を打ち直しては友達に確認をもらい、彼に送った最初のLINE、今思い出すと苺味のシャボン玉が弾けそうなくらい甘酸っぱい。

それからご飯を食べに行ったり、彼の家で映画を見たりとデートを繰り返した私たちは付き合うことになった。

「僕と付き合いませんか?」

45度のウイスキーをロックで呑み、赤いほっぺをした彼は私にそう告白した。
お酒に強い彼が酔っているのを見たのは、後にも先にもこの1回で、正式にお付き合いをすることが初めてだった彼はかなり緊張していたみたいだった。
スーパーで買い物をしてクリームシチューを作ったり、映画を見たり、音楽聴きながらほろ酔いでセックスしたり。
「大好きな人と一緒に暮らすってこんなにも幸せなんだ」
結婚に全く興味のなかった私が、はじめて誰かと共に生きるということに憧れを抱くようになった。

少しずつズレていく私たちの心。桜が散る頃、別れを告げた

少しずつズレを感じ始めたのは、付き合って6ヶ月目のことだった。
「嫌われたくない」
私の小さくて幼い心が、2人の間にあった『信頼』を崩し始めた。

私から見た彼は完璧だった。
容姿に恵まれ家族にも恵まれている上に、大学生である傍ら尊敬する社長の下に弟子入りをし起業をするという、充実した日々を過ごしていた。
一方で私は、好奇心は強いが何かひとつやりたいことが見つからず、将来の目標も明確ではなかった。彼と比べて何の取り柄もない自分に自信をなくしていった。
そして大好きで尊敬する彼に嫌われまいと、自分を良く見せることに必死だった。
心配かけるし、素直じゃないし。
彼の仕事だけではなくて、彼という人間に嫉妬していたのだと思う。

共に時間を過ごしているけれど、心地よさを感じない。
一緒に居るけど、心は遠く感じる。そんな空気が流れるようになった。

春が過ぎて桜が散る頃、私は、彼の私への思いと、パートナーという価値観について綴られたメモ4枚分の画像を受け取った。
「僕は〇〇さんと依存し合う関係にはなりたくない。もし〇〇さんが今の状態から変わることができないのなら、僕たちは別れた方がいいと思う」

「依存するはずがない」
友達にもさっぱりしてるよねと言われていた私は当時、そう思っていた。
だけど、彼が仕事で1人の夜は、寂しくて孤独を感じ、泣いていた。
1ヶ月間のアメリカへの留学中も、彼に会いたいという気持ちで心がいっぱいで、せっかくの恵まれた環境に集中できず、そんな自分が情けなかった。
嫉妬したり依存したり、自分に自信をなくしたり。
このまま彼といると、今まで自分の意思を貫いて生きてきた自分が、彼に影響された自分じゃない非力な自分に変わってしまう気がした。
「別れよう」。私は彼に、そう伝えた。

ふとした瞬間、彼を思い出す。大切な思い出は、そろそろ心の宝箱に

彼のことが大好きだった。
だけど彼といる自分は、大嫌いだった。
これが私の、別れた理由。

電車の窓についた水滴が、風に吹かれていく様子を見ただけで涙が流れてきたり。
夜になると彼が纏っていた香水の匂いや、愛しそうに私を見つめる眼差しが私の中を絶え間無くよぎって、真っ暗な部屋のベッドの隅で、声を押し殺して泣き叫んだ。

「〇〇さん、大好きです」
自分に自信を持てない私を優しく、まっすぐに包み込んでくれた彼の言葉。
「別れたくない」
2人でティッシュを2箱分使って泣きわめいた日。

7ヶ月に詰まった、心臓がキュッとなる数えきれない大切な思い出、そろそろ過去という心の宝箱にしまおう。

「火が灯っているのは一瞬だけど、ずっと見ていたい。」
そんな線香花火みたいな煌めく恋を、君とできて良かった。

最後にあの頃の彼と私に伝えたい。

心の底から、ありがとう。