今日みたいな桜が満開の時期、たまにふわっとした風が気持ちよくヒラヒラと桜が宙を舞う。こんな日には、必ず思い出すワンシーンがある。

子供のように「これは願いが叶う魔法の花びらだよ」と言って渡してくれた彼

数年前の今頃、その日も家を出る前に朝から冷蔵庫にあったプリンを食べたとか食べてないで、彼と私はケンカをしていた。

その後、お昼から一緒に出掛ける予定だったが、私の機嫌が悪くなったことで、彼が気を利かせて私が大好きな満開の桜並木へ連れて行ってくれた。彼に誘ってもらって嬉しい反面、素直になれず不貞腐れて歩いてるとふわっと風が吹き、ヒラヒラと花びらが散った。

すると彼は「ほら、花びらが落ちる前に掴んで!!」と言った。一緒に歩いていたのに、急に走り出して必死に花びらを掴みだしたが、風に揺られている花びらは簡単に言うことは聞かない。踊る花びらに彼が踊らされていて、まるで少年のようで無邪気で見ていて思わず笑ってしまった。

「どこまで行くの~」と言うと、彼はこっちを見て笑っていた。すると満足げな様子でこっちへ戻ってきた。「ほら!これね、大切に持っておくと願いが叶うから、あげる!!」と言って、彼はいつものクシャッとした笑顔で、私の手のひらに優しく小さな桜の花びらを乗せた。

まるで幼い子供に「これは願いが叶う魔法の花びらだよ」と言われているようだった。何処かで素直に受け入れてしまっている私がいた。「うん、ありがとう。大切にするね」と言い今でもその花びらは、その日の日記のページに挟まれている。

結婚の話は出ていたし、私も彼と結婚すると思っていた。けど、別れた

その冬に、私から別れを告げた。別に彼が悪いってことじゃない。大学の時から付き合って、社会人になってお互いそれぞれ大人になって、気づけば5年の月日が流れていた。

彼の両親は、すごく優しさに溢れていた。お義父さんは鉄道会社の役員、高校卒業をして鉄道会社で長年働いて、その結果役員までの地位を築いた。お義母さんはお料理が得意で、面倒見がいい。筍の煮付けの味は今でも覚えていて、たまに食べたくなる。妹が一人いて、私と同い年。やんちゃな感じだけど、根が優しい印象だった。

結婚の話は出ていた。私も彼と結婚すると思っていた。

ある日、彼の携帯から電話があって、妹が近々結婚をするという連絡だった。話を詳しく聞くと、できちゃった婚らしい。できちゃった婚が悪いっていう話じゃなくて、私と彼が長女と長男だから、勝手に豪華な結婚式が出来ると思ってた。

一人目の赤ちゃんが出来たら...とか色々考えてたから、何か変に彼の妹さんに先を越された気がした。今は、そんなこと考えないけどね。

それが原因ではなかったけど、きっかけにはなったかもしれない。彼との未来は見えすぎていた。まるでレールに引かれている人生。結婚して子供が産まれて、一緒に過ごしていく。

私はまだ24歳だったし、結婚じゃなくて色んな人と恋愛がしたかった

当時、私は24歳。まだまだ恋がしたかった。色んな人と恋もしたかった。正直、このままひかれたレールには乗りたくなかった。

別れた次の日、結果を伝えた親友はとても驚いていた。親友は彼とも仲良かったのもあり、彼に「私を引き止めるよう電話して欲しい」と説得した。そうとは知らず、彼からかかってきた電話に丁寧にお断りをした私。今でも鮮明に覚えている。

そもそも結婚願望がなかった私と結婚願望があった彼。私と別れた1年後、彼は結婚した。

私が彼をふった理由は、片付けが苦手だった。彼に対して嫌な気持ちは、結婚するとその何倍も強くなると誰かが言っていた。今思うと、あの頃の私には、“結婚する覚悟”がなかったかもしれない。

優しい彼は「待つ」と言ってくれた。けど、そんなのいつ結婚願望が出てくるか分からない。早くて明日、もしかしたら一生、結婚したいなんて思わないかもしれない。そんなの待っててくれる彼に失礼だ。結婚はしたい時にすれば良い、誰かに言われてするものじゃない。

学生の頃から決めているマイルールがある。別れたを選んだ場合、何がなんでもよりは戻さないと決めている。その為に考えて考え抜く。後悔しないか?決めた先には未来があるか? 自分と向き合った。

私は最後、彼との別れを選んだ。最後の最後までワガママな私と、最後の最後まで優しい彼だった。