私が女子剣道部の服装文化を変えるなら、従来の白袴ではなく紅色の袴を新たに登場させて、女剣士達に浸透させたい。
白袴に「経血」が漏れて、恥ずかしくて試合どころではなくなった
中学3年生の夏、剣道の全国大会で地域予選を突破した私は、緊張しながら県予選当日の朝を迎えた。起きた瞬間、なんとなく体がだるくて頭痛と腹痛があったが(緊張しているからだろう)、何も気にせず試合会場へ向かった。
私は、稽古場ですれ違った他校選手の「後ろ汚れてますよ。怪我ですか?」という言葉で自分の白袴の経血汚れに気づいた。振り返って、太もも辺りから足首まで真っ赤に染まった白袴を目の当たりにした瞬間、頭が真っ白になってしまった。どうしよう、どうしよう、どうしよう…。
アラサーの今なら生理日管理アプリを見たり、自分の体調変化から(そろそろ生理が来そう)と予測して、あらかじめナプキンを準備することができるが、当時は初潮が来てからまだ2回目の生理だった。自分の周期も予兆も全く知らなかった。
恥ずかしくて隠れたくて、もう試合どころではなくなった私は、顧問の男性教師に相談する勇気もなく、黙って稽古場の奥にある掃除用具庫に逃げ込んだ。ほこり臭いモップを裸足で踏みながら泣いていると、バケツを持った会場校の女性教師が入ってきて目を丸くした。
「袴が、血が、どうしよう」と、泣きじゃくってまともに喋ることができない私を見て、その先生はすぐに状況を理解してくれた。すかさず上着を脱ぎ私の腰に巻いてくれて、女子更衣室へ連れて行ってくれた。そして、先生のポーチからナプキンをひとつと「男子部員用の予備で申し訳ないけど」と言いながら、紺袴を持ってきてくれた。
泣きながら紺袴を借りたが、私の頭の中は試合どころではなかった
剣道部では、一般的に女子部員の服装は白で、男子部員は紺という色分けをしているところが多い。自分の学校だけでなく他の学校の部員を見ても、一部違う人もいたが大多数がその配色だった。
泣きながら紺袴を借り、なんとか試合会場へ入って第一試合を迎えたが、頭の中は試合どころではなかった(女子なのに紺色。恥ずかしい。みんな私が生理で汚したと思って見てるに違いない。恥ずかしい。早く消えたい)。
完全な思い込みだと今なら思えるが、あの時は本気でそう思って心がぼろぼろだった。
「面あり!勝負あり!」
全く動けず、ただ立ち尽くして泣いていたら頭に鈍痛を感じた。その瞬間、私の中学校生活最後の剣道試合が終了した。
紅袴があれば、もっと自由に竹刀を振ることができるようになるだろう
入部当初、先輩方がみんな白袴だったから、当たり前のように私も白袴を買ったけど、今思うとまだ生理初心者の女子中学生に、いつでも気軽にお手洗いには行けないような重装備をつける競技で、真っ白な布を穿かせるのはあまりにもリスキーではないだろうか。
「ちょっとでも血が漏れたら目立って嫌だから、ごわついて動きにくいけどスパッツを重履きしよう」。
「稽古中、お手洗いに行く時間がなくてナプキンを交換できなかったから、試合中に漏れるかもしれなくて激しく動くのが怖い」。
「まだ生理がきてないけど試合中にきたら怖いから、蒸れて不快だけど分厚い夜用ナプキンを常に付けておこう」。
「ただ足をちょっと怪我して袴が汚れただけなのに、経血だと勘違いされたら恥ずかしい、どうしよう」。
紅色の袴があれば、そしてそれが白袴より一般的な存在になれば、実際に経血で汚れてしまった際に目立ちにくいだけでなく、こんな不自由な思いを抱える生理初心者の女剣士達が、今よりもっと自由にのびのびと竹刀を振ることができるようになるだろう。
あの日、紺袴で立ち尽くした少女も、自分のおかげで紅色の袴が浸透し、生理への不安という足枷が外れて、艶やかな摺り足で駆け抜ける女剣士達を見れば、きっと涙を拭いて笑顔を浮かべるだろう。
うら若き女剣士達よ、もうあなたの敵は目の前の相手だけだ。紅袴でもっと自由に戦おう。