26歳独身。結婚願望こそないが、2年付き合ってた彼氏に振られたばかりの女だ。

私は、お酒で日々の出来事の全てを発散させて生きている。普段は1人の時もあれば、飲み友達に声をかけることもある。振られたその夜は、あまりの悲しみに片っ端から気の知れた仲間に電話をして、飲まないかと尋ねた。3人目で、ようやく1人の暇な男友達が飛んできてくれることになった。

2年間付き合った彼氏に振られた私は、男友達と飲み歩いた

男友達である彼は、25歳独身。性格は末っ子気質で、田舎の良い家で育ったお坊っちゃんである。ただ彼が1年前くらいに振られた時、話を聞いて励ました貸しがあり、恩を感じて来てくれたのだろう、そう思っていた。

店を3軒はしごしてはウォッカとウイスキーを暴飲し、泣きながら騒ぐ私の話に付き合ってくれた。帰りに彼は家まで送ってくれた。家の前で帰ろうとすると、何故かここぞとばかりに告白してきた。

昔から、女は弱っている時が落し時とはよくいうもので、特に好きでもないのに前向きな返答をした。感情が無になっている時、人は時に返答を考えるのが面倒臭くなり、惰性で頷くのだ。冷静に考えると最低だが、あの男も25にもなればこのタイミングならいけるくらいに思っていたと思う。いや、絶対思っていた。だからお互い様なのだ。

明くる朝、目が覚めて冷静を取り戻した。何故頷いてしまったのだろうと。でも、恋人らしい関係を築いていれば、男として全く見ていなかった彼に好意を抱き、昨日までを忘れられるのかもしれない。そんな考えもよぎった。だからとりあえず諦めて、彼女とやらになってみることにした。

この惰性が消したい過去にまでなるとは、この時は思っていない。何度かデートをして良い所を見つけよう、これに限るとその時は思った。

付き合い始めてから、初めてのデートで感じた彼への違和感

そして新しい恋人との生活が始まった。しばらくして、2人でお茶をしてご飯に行くことになった。その時期は夏だったこともあり、私はお気に入りのノースリーブを着て、できる限りのオシャレをしたつもりでいた。彼は服には無頓着で、ヨレヨレのTシャツにジーパンを穿いてやってきた。何故か、とても幸せそうなオーラを身に纏って。

正直少し引いたが、まぁそこは大目にみようと思っていた。そして、カフェに着いて「俺の家はね、堅い親だからさぁ、そうゆう服は着ないでね。びっくりされるから」と言われた。私は「へぇーそうなんだ」と、とりあえずそう返したが、無になった。
 
まず第一に、結婚前提のような空気を出してこられても…と思った。第二に自分を省みず、相手への言い方を考えられない人とはこのことだと思った。飲み友達の時は知らなかった面を垣間見てしまった結果、出だしから良い所を探すどころではなくなった。そして、その日は終始愛想笑いで終わった。何とも疲れる1日だった。26年間で一番楽しくない1日だった。

ただ厄介なことに、彼も私も2ヶ月後にとても大事な資格試験を控えていた為、今彼のメンタルをこじらせることは私にとってもリスクだった。だから、試験が終わった夜に盛大に振ってやることだけを目標に、2ヶ月平静を保つことにした。

それからは、なるべく勉強を理由に断りつつも、水族館に行ったり温泉に行ったり、どうにかうまくやった。かかってくる電話やLINEにもそれなりに対応した。

毎回、無意識に相手が気に障るようなことを言う、相手との温度差には全く気づかないという彼の特技には感心した。段々“こいつと付き合う”という仕事をしている感覚になってきて、自分は心底終わっていると思った。あの時、惰性で頷いた自分を、鏡を見る度に後悔した。

私は確信した「彼は相手が困っている時に逃げるやつなんだ」と

そして、2ヶ月があっという間に過ぎ、試験日となった。試験の終わった夜に「話がある」と言う予定だったが、試験の緊張からか私は発熱し、体調を崩してしまった。その日で全て終わりというわけにもいかなくなった。

それに、彼は明日から3週間ヨーロッパを縦断するらしく、直接最後の審判を下すことができるのは3週間後となった。体調のせいもあってか、会わずに済んで電話も来ない3週間なら別に好都合だと思って放った。

しかし、そんな考えだったからか私にも罰が下った。私は、資格試験に落ちてしまった。彼はというと、合格していた。

男のことなど、どうでもよかった。人生において一度の失敗など大したことないのもわかっていたが、試験に向かって全力投球したこともあり、かなり堪えた。誰とも連絡を取りたくなかったが、一番近い存在は心配くらいはしてくれるもんだと思っていた。

でも、そんな思いとは裏腹に、彼はそっとしておいて連絡はしばらくとらないでおこうという行動に出た。この時、私は確信した。相手が困っている時に逃げるやつなんだと。

そして、5日連絡が来なかった日の夜、必ず盛大な最後の審判を下して二度と連絡などとらないと決めた。そして、呼び出すと彼はのうのうとやって来た。
「久しぶり、全然連絡来ないから心配したよー。生きてたならよかった、はいお土産」
「いらない、あともう終わり。別れて」
「え……俺なんかした?」
「本気で言ってんの?幸せな人だね、人としても男としても魅力がなかった。これが理由だから、あと一度も好きになれなかった」見ると、彼は泣いていた。私は何も言わずその場を去った。一度も振り返る気はなかった。

その日のお酒ほど、美味しいと感じたことはない。こうして最後の審判は下った。思いの外、呆気なかった。