ある小さな田舎町の片隅で出会った。
近所のあおいちゃんとは、いつも一緒だった。

私とあおいちゃんは、お互い分かり合える「唯一無比の存在」だった

私は銀縁の眼鏡姿に、ショートカット。真面目に生きればいつか報われると思い、ずっと学級委員長を任されていた。先生には好かれていたけれど、クラスの男子からは疎まれていたと思う。

あおいちゃんは線が細くて、ツインテールの可愛らしい女の子で、すこし色黒なのをとても気にしていた。でも、可愛らしい彼女の姿はそんなの気にしなくていいと思うほどだった。彼女はいつも言っていた「完璧じゃなきゃ意味ないの」と。

私よりずっと天真爛漫だけど、実はけっこう気が強いし、合わないんじゃないかと、はじめは思っていた。だけど、彼女と出会ってからもう12年になる。いつもなにかに腹を立て、いつも手を叩いて笑ってもいた。お互い分かりあえる、唯一無比の存在だった。

中学校まではずっと傍にいたけれど、おのおのの偏差値に応じて、高校は別々になった。高校に入学してからも駅に向かう道は同じで、朝はよく一緒に通っていたし、月に二度はファミレスで語り合っていた。

励まし合って、いろんな苦難を乗り越えた、つもりでいた。今になって思えば、そのあたりからだったと思う。彼女が美しさに異常なまでに執着しはじめたのは。

「完璧」を求める彼女は現実に苛立ち、少しずつ変わり始めた

はじまりは、一つの恋だった。高校2年生の頃、あおいちゃんには彼氏ができた。一つ年上の先輩で、顔立ちがとても整っていた。あおいちゃんは笑顔も増えて、私はぜんぜん彼女の心の軋みに気づけなかった。

彼に釣り合うようになりたいという純粋な願いは急速に加速し、彼女の心に妥協という言葉は一切生じず、自分は太っているから、といつもダイエットをしていた。彼女の脚は、いまにも折れそうな枝のようになった。

「あんな子が彼女なんてね」と、高校で陰口もあったらしい。彼が何気なく発した「いつもかわいくいてね」という言葉も耳から離れなくなり、完璧を求めるあおいちゃんは理想通りにいかない現実に苛立ち、メイクでは飽き足らずプチ整形を始め、彼女の顔は少しずつ変わり始めた。彼氏はそこまではちょっと、とあっさりあおいちゃんに別れを告げ、ご両親はようやくその頃になって「難しい年頃なのよ」では収まらない、暴走していくあおいちゃんの異常を嗅ぎ取った。

人は他人が思ってるより、脆い生き物だ。「なんのために生きてるのか、わたしに価値なんてないの」「だって、わたしはどうしようもなく醜いもん」と、あおいちゃんは言っていた。彼女は病院に行き、ほどなくして身体醜形障害と診断された。

ぽっかり空いた心の穴に詰めるものが見つからないまま、あおいちゃんの穴は暗く深く、大きくなりすぎた。視線を合わすことさえ恐怖になったあおいちゃん。私も苦痛の対象のひとりになった。

あの時「あなたは醜くない」と言っていたなら…と後悔するけど

どうして、どうして、どうして。「どうして言ってくれなかったの」「そんなの言えっこないよね」が頭の中で、ぐるぐる巡る。

「やんなっちゃうよね」と、なんてことないように笑っていた彼女を思い出す。彼女とたくさん話して理解し合った、つもりだった。少しでも違和感を感じたら、すべて問い詰めてでも聞くべきだった。もっと違う、彼女を救える言葉をかけることができたんじゃないか。でも、それもきっと私のエゴだ、気づいた時には大抵遅い。

あおいちゃん、ごめんね。私はとても非力だ。あおいちゃんの弱さは、私にもある弱さだった。堪らなく痛かった。

周囲が私を好ましく思うかどうかなんて、自分にはまったくコントロールできない。生きている限り、そんな瞬間が必ずくる。何度もくる。でも、すべての評価を真正面で受け止めきらなくてもいい。あおいちゃんを低く見積もる人たちに囲まれたら、さっさと退散してもいいんだよ。

安易に吐き出した言葉が持つ毒に気づけないまま、善意の皮をかぶった悪意が誰かを蝕んでいくことは、この世にどれだけあるだろう。完璧を求めるがあまり、いつまでたっても完璧になれないとあおいちゃんは狂っていった。でも、彼女は異端でもなんでもない、みんな同じように闇を抱えている。

あおいちゃん、本当に完璧な人間なんて、この世にいないと思うよ。あおいちゃんは醜くなんかない、あおいちゃんが思っているより素晴らしい人だよ。

言いたくて、言えずに飲み込んだ言葉たちは溢れるほどだ。あの時言っていたなら…と後悔が押し寄せるけれど、でも私は知っている。他人の悲しみのすべてを理解し切ることはできない。でも、理解するための努力は絶やさない人でいたい。

あおいちゃんが自ら鏡を見る日、自分のことを好きになれる日、そんな日が来るときは、せめてちゃんとあおいちゃんのそばにいたい。なんの救いにもならないかもしれない。

それでも言いたい、本当の、心からの賛詞を。あおいちゃん、あなたは本当によく頑張った。すっごくきれいだよ。