同棲を始めて数ヶ月が経ったとき、自分を抱かない男と生活を共にすることに、耐えられなくなってしまった。
彼を求めて断られた夜は、胸が「苦しくて」勝手に涙が出た
彼とのセックスに違和感を持ったのは、比較的早い段階だった。彼との初めての夜は、幸せな気持ちより物理的な痛みの方が強かった。痛いと伝えたり、こうして欲しいと伝えたり、私は頑張っているつもりだったけれど、いつのまにか彼に引け目を感じさせてしまっていたようで、私たちの間に営みはほとんどなくなった。
同棲してからは特に、彼はそういう雰囲気になることを避けているようだった。たまのセックスは私から無理矢理誘って、彼は「仕方ないなあ」みたいなスタンスで、前戯は作業みたいで。多分、私が今までに言った不満を一つ一つ思い出して、一生懸命頭を働かせてくれていたんだと思う。
けど、頭は動いていてもそこに心はなくて、私は満たさせるどころか、毎回少しずつ自分の中の何かを消費した。数少ない情事の後は、頭の中がぐちゃぐちゃになって泣いたし、求めて断られた夜は真っ暗な天井を見つめながら、胸が苦しくて勝手に涙が出た。
彼は、私の些細な言動をいちいち覚えていてくれて、どんな愚痴も絶対に味方になって聞いてくれて、私との未来を誰よりも真剣に考えてくれた。アルコール中毒で狂った親も、ソリが合わない大学の友達も、学費のための水商売も、見えない未来も、彼と一緒にいるだけで心からどうでもよくなった。むしろ現実の全てが愛おしいくらいだった。
だから「結婚してください」と婚姻届を渡されたときは、本当にうれしかった。
婚姻届を渡される1ヶ月前に、2人で子犬を飼った。セックスレスなんてそんなくだらないことで、こんなに大切な人を失わないための理由に、この子がなってくれるような気がした。彼と家族になりたかった。ずっと一緒にいたかった。
結婚までしたいのになぜセックスしてくれないのか、彼に聞けなかった
それなのに、1ヶ月後に婚姻届を渡されたとき、私はすぐに「はい」と応えられなかった。何度も話し合ったけど、私たちは上手く向き合えなかった。私と結婚までしたいのにどうしてセックスしてくれないのか、本当の気持ちは聞けなかった。
彼に「クレヲの性欲が強すぎるんじゃないの?」と言われたときは、恥ずかしさで煮えくりかえった血液が、血管や皮膚を破るようだった。胸が苦しくて、勝手に涙が出た。
そこからは、坂道を転がり落ちるように、彼をどんどん嫌いになった。嫌いというより憎しみだった。マザー・テレサの「愛の反対は憎しみではなく無関心です」という言葉を借りるなら、確かに彼への愛が消えたわけではなかった。
強く愛しながら、強く憎んでいた。今まで許せていたことが許せなくなって、彼の小さな落ち度も愛おしく感じられなくなった。
道行くカップルをうらめしく思った。友人に「子宮を取りたい」と話した。私の愛する人に触れたいという気持ちがこんなに煩わしいものなら、もういっそ子宮ごと取ってしまいたかった。自分のことを心底、気持ち悪い女だと思った。
私がよそで浮気でもして「心と身体は別モノ!」と、堂々と言えるような女だったら良かった。大好きな彼より、仕事や趣味を大事にする女なら良かった。でも、私はそうじゃなかった。
心と身体が繋がりまくった女で、悪かったな。誰かを好きになると、それ以外何もいらなくなってしまう女で、悪かったな。
「私たち付き合ってる意味あるのかな」と言い、私は別れを決めた
2020年の大晦日、私たちは別れた。私から別れを告げた。その日は約2ヶ月ぶりに良い雰囲気になったのに、彼が「蕎麦茹でてくる」と言って台所に逃げたから、私の中の何かがぷっつりと切れた。
「あなたって何も学ばないよね。私たち付き合ってる意味あるのかな」という言葉が涙と一緒に溢れて止まらなくて、でももうこれ以上彼を憎みたくなくて、別れた。壊れるくらい泣いた。彼も泣いていた。
付き合って、すぐに合鍵をくれたあの人。「君が妻になってくれたら幸せだ」と、可笑しいくらい真面目な顔で言ったあの人。誰にも言えなかった話を、深夜電話越しに聞いてくれたあの人。
誰よりも大事な人だったからこそ、憎みながらする同棲に耐えられなかった。「こんなもんか」と、自分を騙しながらする虚しい結婚に、何の意味も感じられなかった。できるものなら、彼のことを愛しいと思ったまま、一緒に歳をとっていきたかった。
私はこれからもきっと、自分の心からの幸せのためにもがく。条件が合うそれなりの誰かとそれなりの幸せを手に入れるためじゃなくて、大切な人と心からの幸せを手に入れるために真っ直ぐ生きる。そうすることで、私が超えたいくつもの泣いた夜が、報われると思う。