幼い頃から、自作の歌を歌ったり演じたり絵や文章を書いたり…。
とかく創作する事が好きだった。
何かを作るということはワクワクの連続で、それを仕事にできたらどんなに幸せな事だろう、毎日楽しいだろう。子供心に私は無邪気にそう思っていた。
私の敗因は、無邪気にスレずに大人になったことだろうか。
キラキラな物事の全てが出来るような気がして。声優を目指した
アイドル声優がもてはやされ、声優ブームなんて言われていた時代だったと思う。
演技に歌にラジオにイベント、キラキラとした物事の全てが出来るような気がしてブームに乗っかるように私は声優を目指した。
浮草稼業である。両親は勿論反対した。
反対すればする程意固地になる私に両親が提案した妥協案は、きちんと大学に通うこと。
東京に出ることを許可された私は、勇んで受験勉強に邁進した。
めでたく東京の大学に進学した私は事務所を調べ始めた。
所謂大手と呼ばれる声優事務所、その付属養成所の入所条件は、最低でも1年以上の専門機関での修学。出鼻を挫かれた様な気持ちで、やはり大手と呼ばれる専門学校を検索すれば、入所金や週1回しかない授業料を合わせると50万超え。地方出身の学生には土台用意出来ない金額に目眩がした。
21歳、最初の挫折である。
結局私は、比較的授業料が安価な舞台系の養成所に合格し、1年の養成期間を過ごした。入所料も含めて約30万。バイトをやり繰りしてなんとか貯めた額だった。
金銭的には苦しかったが、年2本の作品作りは当時の私には学びも多く、年2回の研修生公演に課された1人30枚のチケットノルマ(1枚3000円近く、有名人が出ている訳でもない公演に出すには些か強気な価格の中々捌けない物)だって、結果的に捌けない分は自腹になることだって。この先の過酷さを暗示しているんだろう、と受け入れた。
22歳だった。
舞台に見切りをつけた私は、映像系のエキストラ事務所の門をたたいた
その後、入団選考に漏れた私は一般公募のオーディションに応募し、舞台に出演することを繰り返す様になる。
オーディション、とは言っても芸能人が出演している訳でもなければ、有名な演出家が関わっている訳でもない。
私と同じ様な境遇の殆ど無名の小劇団や企画団体が主だった。
誰に求められている訳でもない団体が、誰に求められる訳でもなく公演を打つのだから、どうしても内輪でチケットを回すようになる。
自力で捌ける枚数はたかが知れていて、結局、今までの共演者に毎回公演案内のラインを送っては既読スルーをされることを繰り返した。
大半の若手はそうやってラインを送り合うものだから、いちいちその全てに色良い返事をしていては此方がチケット貧乏になってしまう。段々と私も先人と同様にお知らせを既読スルーするようになっていった。
そんな営業をしたって、数十枚チケットを捌けた上でうん百円のチケットバックのみ、ということがザラ。交通費や公演期間に入れなかったバイトの収入を考えれば完全に赤字。未来は無いと悟った。
25歳だった。
映像ならギャラが出るよ、と世間話程度に聞いた言葉が耳に残っていた。
舞台に見切りをつけた私は、映像系の事務所を探す様になった。大手は既に募集年齢を過ぎてしまっている。それでも諦めきれず一縷の希望を胸に所謂エキストラ事務所と呼ばれる事務所にコンタクトを取った。
面接担当だった初老の女性は優しげで、色々と親身に話を聞いてくれた。正直、無名の子をじゃあ直ぐに所属とするのは難しいのよね…。登録料は5万なんだけれど、と申し訳無さそうに言われた時も、悪い人では無さそうだなと支払った。
勧められるままに何件もオーディションを受ける日々。殆どは梨の礫で、たまに現場に呼ばれてもその他大勢のうちの一人。炎天下や寒風吹き荒ぶ中、劣悪な環境でも、大変だがギャラの為なら、と打ち込んだ。様子がおかしいな、と思い始めたのは最初に仕事を受けてから半年経った頃だった。ギャラの支払いは早くても2~3ヶ月先になる、という話は入所の際に聞いていたが、半年経っても振り込みの形跡が無い。
事務所に問い合わせると、システムの不具合で振り込みが遅れている。来月には振り込み予定だ、と返信があった。翌月、振り込みは無かった。
期日を過ぎても無い連絡に、再度問い合わせを行うと、やっと数千円の振り込みがあった。話に聞いていたよりも少ない額と振り込みの遅延に不信感がつのる。それでも1年、事務所で仕事をしたが、結局振り込みがあったのは催促して2回だけ。
最後の方はギャラの進捗確認をしても返信すら来なくなった。
勉強料だなと思った26歳。
演技力や歌唱力…。一定の基準があるから学べると思ってしまう
別の所属先をと応募するも大半は書類落ち。稀に面接に呼ばれることもあったが、自社ビルの中で行われる面接は高額なスクールへの勧誘で、寂れた公民館やマンションの一室で行われる面接は、マルチの勧誘だった。
流行りのVtuberだってやったが、セクハラ・指示厨・出会い厨、対応や配信にかけた時間を考えたらキャバクラの方が断然にコスパが良い。馬鹿らしくなって長くは続かなかった。
AKBが会いに行けるアイドルを有名にし、YouTubeやニコニコ動画が誰も彼もをクリエイターにした。隣の席のあの子が界隈ではちょっとした有名人、ということも珍しくはない時代。気軽に表現活動が出来るというのはとても素晴らしいことだと思う。
しかし同時に、素人と玄人の境目が曖昧になったように感じる。
極論、表現活動の良し悪しなんて個々人の価値観次第だ。明確な上手い下手では切り分けられない、博打みたいな世界。
その中で、演技力や歌唱力、なんて言葉をつけて、あたかも一定の基準があるみたいな体を装っているのが今の俳優界隈だと思う。一定の基準があるから学ぶことが出来ると思ってしまう。だからこぞって星の数ほどあるスクールに通うんだなと思う。
わたしはもう手遅れだけど、出来ることなら、若者の夢を食い物にする、業界の慣習を変えたい。