シンデレラ・コンプレックスというものなんだと思う。

「声優になる」。夢の舞台の東京に出たら、何かが起こると思っていた

1歳に満たない頃からよく喋る子だった。
歳の近い兄妹もおらず周りには両親や祖父母。20も30も歳の違う大人に囲まれてませたことばかり喋ったり考えたりしていたその子は、親に期待され、当時県で一番偏差値の高い女子校に入学した。
中高一貫、くたびれた男性教諭とやけに人気のお爺ちゃん先生以外には男性もいない女の園で六年間。
彼女はそこで演劇に出会い大会などを通してどっぷりとその沼につかった。
折しも時は2000年代後半。
声優がアイドルのようにもてはやされ冠のラジオやライブが、田舎にいても楽しめた。
演じること、喋ること、歌うこと。
褒められてきたし、だから人よりもちょっと出来る自信もあった。
キラキラとした画面の向こうの世界が身近なものに見えた。
多感で夢見がちな10代。少女は熱に浮かされた様に声優になると公言し始めた。
夢の舞台は東京にある。
進学先を東京に定めた。大学だけは出てくれと親に説得されて、それでも芸術系の大学に進んだ。
東京に出たら、何かが起こる。
そう、思っていた。

唯の学生のまま3年が経っていた。真っ白になっていた7年前の私は

1年目、初めてだらけの一人暮らし。学校とバイトの往復で1年が終わった。
2年目、東京の生活にも慣れてくるとテーマパークやイベントなど楽しいことに目移りした。
日々はあっという間に過ぎ、3年目の夏、ゼミの教授に『お前が一番心配』と真顔で言われた。
授業には真面目に出席する、でも、芸術系の学校に通っている割にあまりにも『ふつう』の学生過ぎる、と。
東京に出てきたら『何かが起こる』、そう思ったまま、気がついたら3年が経っていた。
唯の学生のまま3年。何かが起こる、と夢を見たまま就活もせず来年には卒業だ。
毎週恒例のゼミの席で何も言えないまま30分。ゼミ生に囲まれて重苦しい沈黙の中、頭が真っ白になっていた。喉がつっかえた様に苦しい。
そうして、焦った彼女はそこからでも応募が可能な養成所に願書を送った。

それが、約7年前の私の話である。
現在28歳の私がどうなったか。

気持ちは夢見たあの日のまま。でも、あっという間に歳をとって

受験に成功した劇団で1年研修をした。
終了公演では準主役級の役をもらったし、演出の先生に気に入られていたというちょっとの自惚れもあった。しかし、劇団所属の選考には漏れてしまった。まだ若かった私は別の養成所で技術を磨こうと思った。
しかし、上京組の一人暮らし。バイトを一生懸命しても、普通に働いていては養成所に入学する為のお金すら貯まらない。

ならばと小劇場の舞台にたったりエキストラをしたり。流行りのVtuberだって始めてみた。
28歳、鳴かず飛ばず、今更所属先を探しても年齢に難色を示される。
オーディションでの圧迫面接にも食傷気味で最近は探すことすら辞めてしまった。
気持ちは夢見たあの日のままなのに、あっという間に歳をとって、でも夢見たままだから、就活だって身が入らない。
バイト先では社員並みに働いている。
休日はバイト疲れで寝て消化だ。

最近新しく入った大学生の子。
突然のシフト変更でその子が役者をしていることを知った。
キラキラと輝く彼の未来を想像して、今日一日、気持ちが悪かった。

28歳、所属事務所・大きな実績無し、いい加減才能が無いと気づけばいいのに、未だに諦めきれない。
まだ、『何かが起こる』『誰かがひっぱり上げてくれる』と思っている。

でも、思いながら、ずっと喉がつっかえて息がしづらい。