生理がこなくなった。
最後にきたのはいつだっけ、と、手帳を見返す。
9月8日にはなまるがついているので、5ヶ月近くきていないのか。

前にも一度生理がこなくなったことがあって、でも2ヶ月くらいしたらもと通りになったから、今回も大丈夫だろうと高をくくっていた。
年が明ける前に病院へ行こう。
そう決めていたのに、もう2月になってしまった。

生理がこない理由はダイエット？そう考えるほど病院から足が遠のく

このままだと半年以上生理がきていないということになる。それはなんだか響き的にまずいのでは。
原因として思い当たることは、あるといえば、ある。
ダイエットによる体重の減少。
わたしはこの1年で約10キロ痩せた。

今の体重に体が慣れていないせいで、生理がストップしたのかも？
でも正直、わたしはそれを認めたくなかった。
まだ目標体重に到達していないのに、「これ以上痩せるな」と体に言われているようで嫌だった。
そして「生理 止まった」とネットで検索すると、「ダイエットのやりすぎかも。一度体重を戻してみましょう。」と最悪なアドバイスを見つけてしまった。病院で同じことを言われたらどうしよう。

そんな風にしてわたしの足はどんどん病院から遠のいていった。
しかしさすがに怖くなってきた。もし病気だったら？子どもが産めなくなってしまったら？
仕方なくわたしは、「にんじんをぶら下げる」ことにした。
何かご褒美がないとあんな恐ろしい場所へは行けない。
そこでわたしは、普段ならそのカロリーに怖気づいて中々食べられないサーティーワンのアイスを帰りに買うことを決意し、重い足を引きずりながらなんとか病院へたどりついた。

理想に執着するあまり、自分の生殖器を見殺しにしようとしていた

数年ぶりの産婦人科。なぜここに来るとこんなにもどきどきしてしまうのだろう。
女性しかいない病院内と、「妊娠」「月経」「ピル」などの、どこか強いパワーを含んだ言葉の数々。
とにかく早く診察を終え、アイスを獣のように貪りたかった。

今日はスモールになんて絶対しない。レギュラーにしてやる。なんだったらトリプルでも良い。
そんなことを考えてひとり熱くなっていると、わたしの名前が呼ばれ診察室に通された。
先生にいくつか質問をされ（「いつからきていませんか？」、「妊娠の可能性は？」など予想通りのもの）、子宮の様子を診てもらうことになった。

思い切り脚を開かれ、診察器具が体を貫く。
真っ黒な画面にもやもやとした影がうごめいていた。
わたしの子宮だ。
ぼんやりとした意識でそう思った。
無性に悲しくなった。

痩せた自分に執着するあまり、わたしは必死で生きる生殖器を見殺しにしようとしていたのだ。
「特に異常はありませんね。ホルモンの乱れで一時的に止まってしまっているようなので、一度お薬飲んで生理を戻しちゃいましょう。」
先生はそれだけ言ってわたしを解放した。

正直、もっと深掘りされると思っていた。どんなダイエットをしたのかとか、どれくらい体重を落としたのかとか。
でも結局わたしの体は健康で、ただホルモンが乱れているだけだったのだ。
わたしはほっとしすぎて、待合室で「ハアーーーー」と、周りに聞こえるほど大きなため息をついてしまった。

冷たい風のなか自分をきつく抱きしめ、存分に可愛がることに決めた

処方箋をもらい、薬局で薬を受け取った。
ホルモン剤だった。
説明欄に「副作用として食欲不振、むくみ、体重増加などがまれにあります」とあった。
「体重増加」という文字しか目に入ってこなかった。

しかしわたしは、自分の力で生理を呼び込めない体に心から同情していた。
かわいそうだ。
わたしは過度な食事制限や運動はしていなかったし、1年という比較的長いスパンでダイエットを行ったため、それが原因で生理が止まったのかどうかはわからない。
けれど、まあまあタフだと思っていたわたしの体は、女性の体は、思ったより繊細で敏感だ。

ちょっと体重が減っただけで、ちょっとストレスを感じただけで。
そう思っていても、「ちょっと」と判断しているのはあくまで自分の脳みそで、体は色んなやり方でSOSのサインを出している。
薬局を出ると、風が冷たかった。
だからわたしは自分をきつく抱きしめた。
わたしはわたしを存分に可愛がることに決めた。
不思議と、キンキンで刺激的なアイスをめいっぱい詰め込むことに、さほど心惹かれなくなっていた。

わたしは前から気になっていた、近くの小さなカフェへ向かった。
温かいカフェラテを頼んで、窓の外を眺めながらゆっくり飲んだ。
ベージュ色をした液体が体のすき間を埋めていく。
わたしのためだけに作られたものは、どうしてかとてもおいしい。