わたしは、鎧を纏って外に出る。誰かにその下にある、本当の顔を見せることは今のところない。

わたしの「メイク研究」に終わりはない。この数年を無駄にはしない!

アイプチをして、目を二重にする。ベースを塗って、粉をのせて。眉毛を描いて、目を作っていく。そしたら、前髪にアイロンで熱を通して、後ろ髪もコテで巻いていく。毎日、1時間を超えるこのルーティーンをこなして、ようやく誰かと会う、人前に出ることができるのだ。

わたしの目は醜い。一重か奥二重かわからない、中途半端な幅で、さらにツリ目。メイクをしても、隠せている自信はない。当時はそれを"活かす”なんてことは、少しも考えていなかった。

「お前の目、凶器かよ」そんな言葉を投げかけられたのは、高校1年生の時。好きだった人に告白して、玉砕して、仲のいい男友達になった、そんな奴からだった。好きという気持ちはもう消したけど、異性にそう思われていると初めて認識した瞬間は、笑顔を貼り付けたけどショックを引きずったのは、今でも鮮明に覚えている。

そこから、わたしのメイク研究の日々が始まった。アイシャドウの色や濃さ、塗り方。アイラインの引き方。ツリ目が嫌で、キツく見える目をどうにかしたくて、アイライナーやマスカラはブラックからブラウンに変えた。今では、カラーコンタクトやまつげのセパレート具合、眉毛と、その周りも踏まえて、まだ研究を続けている。

きっとこの行為に終わりはない。薄々感じている。自分に興味がなくなったら、すべて終わるとともに、この数年が無駄になるのだろう。

メイクは見た目だけを強くするんじゃない、「心」も強くしてくれる

この研究を始めて、安定して、引き算もできるようになってから、「可愛い」と褒めてくれる同性は増えた気がする。自分の纏っている鎧が、自分に合ったものだと褒めてもらえているようで、自分のチョイスが正しいと肯定してもらえているようで。自分を認めてくれる存在は、無条件に嬉しい。

その代わり、"本当の自分”はこの世から消えたような気がしている。すでに、鎧を纏った自分=本当の自分になりつつある。鎧を纏っていない自分は、もはや自分ではない。メイクという方法でアイデンティティを見出したんだろう。

その鎧は見た目だけを強くするんじゃない、心も強くしてくれる。鎧を身に纏うからこそ、自信を持って人前に出ることができる。話すことができる。笑うことができる。

内気で、特定の人としか話せなくて、笑うのが苦手だったわたしを変えてくれたメイク。重い、鉄の鎧ではなく、魔法のような、キラキラとした何か。ベールのような、バリアのような、透明でキラキラした、特別な鎧。

コンプレックスを包み込んで、そっと明かりを照らしてくれるメイク

毎日の研究によって進化する鎧は、みんなが想像するあの鎧ではない。わたしだけの特別な鎧だ。これはもう、何処かから持ってきた、借り物なんかじゃない。わたしだけのもの。

メイクの魔法を知っている人は、きっとみんな持っている、それぞれのオリジナル。コンプレックスも包み込んで、そっと明かりを照らしてくれる。そんなメイクは、心にもスポットライトを当ててくれるんだ。ただ、目立つだけじゃない。"自信”を渡してくれる。

だからわたしは、今日も自ら鎧を身に纏いにいく。