気付けば私は昔から、「あの頃に戻りたい」とよく言うようになっていた。小学生のとき、親の仕事の転勤で転校したときには「前の学校に戻りたい」、中学生になると「小学生に戻りたい」という調子で、私は社会人になった。

「戻りたい」と思っても、何も変わらないことは分かっていた。しかし、人生の各段階で困難に直面したとき、そう考えることが一番手っ取り早い現実逃避の方法だった。

中学生の頃に憧れていた先輩と、SNSを通じて連絡を取ることに

社会人3年目のある日、Instagramを見ていると、“おすすめ”として、同じ中学校の1歳上の男の先輩のアカウントが表示された。私と同じ部活だったその先輩は、周りに流されず、自分にストイックで、私にとって憧れの存在だった。

当時の私は、先輩に話しかけることができず、少し離れたところから先輩を眺めることしかできなかった。そんな先輩のアカウントをすぐにフォローする勇気は出なかった。

数ヶ月後、その先輩のことを知っている幼なじみと会う機会があった。先輩のInstagramのアカウントを開いたスマホの画面を見せると、「あ!懐かしい!」と言った途端、彼女は“フォローする”を押していた。「えええええ!?」私は、慌ててパニックになったものの、先輩をフォローするいいきっかけになったと思うことにした。

すぐに先輩からフォローが返ってきて、私は幼なじみと喜んだ。お互いの投稿に“いいね”をするだけでも、私は十分嬉しかった。

お互いをフォローして約半年。私が中学時代の部活に関連した内容のストーリーを投稿した。そこに先輩からリアクションがあり、DMでのやり取りが始まった。他愛のないやり取りの後、LINEのIDを交換した。

「のなよちゃん、あの頃部活頑張ってたよね」と、中学時代には話すことすらできなかった先輩が今、私にこんなLINEを送ってくれているなんて。中学時代、先輩のメールアドレスも聞けなかったことを思い出し、メッセージのやり取りをしていることが嬉しくて仕方がなかった。

「インスタ見たけど、今も変わらず可愛いね」と言われ、今までの先輩のクールなイメージとはまた違った内容のメッセージに戸惑いもあったが、私は彼氏と別れて間もなかったこともあり、私の心は舞い上がっていた。

「憧れの先輩」にご飯に誘われて、会うことになった

私は先輩にご飯に誘われて、メッセージのやり取りを始めて1週間後に会うことになった。会う前は今までにないくらい緊張し、現れた先輩は眩しくて、しばらく直視できなかった。

今私は、先輩と向かい合って話している。こんなことが自分に起こるなんて、本当に夢のようだった。その帰り道、先輩に手を握られた私は、そのまま先輩の彼女になった。

私は先輩とタメ語で話すようになり、テーマパークへ行ったり、私の家でご飯を作って食べたり、デートは毎回本当に楽しくて、あっという間に時間が過ぎていった。

そんな夢のような日々も、長くは続かなかった。先輩と付き合い始めて約1か月、先輩に彼女がいることが発覚した。私は、二股をかけられていたのだ。

「遊ぶつもりじゃなかった」「彼女とうまくいってなくて」などと先輩は言っていた。中学生の頃は話しかけることも出来なかったのに、私の口からは「最低だね」「人のことからかって遊んでいい気分だった?」と先輩を罵倒する言葉が次々と出てきた。

「過去フィルター」を通すことで、過去のことが美化されてしまう

あっという間に再燃した恋は、あっという間に消えてしまった。たくさん泣いて、泣いて泣いて、吹っ切れて冷静になった私は気付いた。

中学時代の憧れを差し引いた今の先輩は、ただのクズ男だ。もし、今の先輩と今初めて出会ったとしたら、好きになっていなかったと思う。“憧れの先輩フィルター”と“過去フィルター”がかかって、今の先輩も素敵に見えてしまっていた。

昔のことなんて思い出しても仕方がない。私はそう思うようになった。そして、「あの頃に戻りたい」と思うのをやめた。“過去フィルター”を通すことで、過去のことが美化され、良く思えてしまう。

私が今一番好きな言葉は、“今が一番楽しい。未来はもっと楽しい”だ。