彼女が夢に登場すると、その日はなんとなくうまくいかない。

彼女は小学校の時のクラスメイトだ。私は彼女にいじめられていたためトラウマになっており、夢を見た日の調子に影響が及んでいるのだと思われる。

彼女から言われたことやされたことは、当時の私にとって衝撃的だった。小学校入学まで、私は、道端の石を収集したり、家の近くの草花や近所を飛んでいる鳥を観察したりと、マイペースに生活していた。両親はそんな私をのびのび行動させていたこともあり、私は人の悪意の存在を認識していなかったのだ。

入学早々「デブはこの道を通ってはいけない」と彼女に道を塞がれた

小学校入学後、それほど日が経たないうちに、「デブはこの道を通ってはいけない」と、学校敷地内の通り道を彼女とその友人たちに塞がれた時、私は何が起こっているのか瞬時に理解できなかった。同じ頃、「顔がまんじゅうみたい」と彼女に悪口を言われ、まんじゅうに由来したあだ名が周囲に広まった際、やっと私は泣くことができた。

ほかにも忘れられない出来事がある。小学校1年生の冬、下校時のことだ。私は当時、寒さの厳しい地域で暮らしており、冬はマフラーや手袋を身に付けて通学していた。電車通学をしていたのだが、小学校の最寄り駅は線路が1本、ホームも1つの屋外の小さな駅だった。

ホームの、線路に面していない側にはフェンスが立っており、フェンスとホームの間には、子どもが1人入れるか入れないか程度の狭い隙間があった。電車がホームに入ってきたタイミングで、私は彼女に手袋を奪われ、それをフェンスとホームの隙間に落とされたのだ。

母親に買ってもらった大切な手袋だった。親が愛情込めて買ってくれたと容易に想像できる物を、ともすれば一生取り戻せないかもしれない場所に躊躇なく落として笑っている彼女の心理など、私は全く理解できなかった。

こうした仕打ちについて、私は両親に相談したし、彼女の母親にたまたま会った際には直訴もした。少なくとも私の両親は、「子どものやることだからしょうがない」といった誤魔化しをしなかったが、誰も彼女に制裁を加えたようには見えなかったため、悪人を罰しない大人たちに私は怒りを感じた。

いつも自分が正しいわけでも、彼女が正しくないわけではない

はっきりとした要因はないが、学年が上がるにつれ、彼女の私に対するいじめは収まった。小学校高学年の頃、彼女との会話の中で昔の出来事に触れた際、私と彼女の認識の違いに気付いたことがある。

これも小学校1年生の頃の出来事だ。学校の敷地内には広い庭があり、そこに池や小さな川があった。私と彼女が、川に設置されていた飛び石伝いに移動していたところ、なんの前触れもなく、私は先導していた彼女に突き倒された。飛び石の上で私はバランスを崩し、背中から川に落ちた。盛大に服を汚し、その後保健室でシャワーを浴びることになったのを覚えている。

この出来事について、私は長い間、彼女が悪意を持って私を川に突き倒したのだと思っていた。しかし、彼女の認識は異なっていた。

彼女が言うには、私に後ろから服を引っ張られたため、抗議の意を込めて「何をするの」と言って押し返したそうだ。すると、私がバランスを崩し、背中から川に落ちたらしい。彼女からしてみれば、突然服を引っ張った私が100%悪い。確かに思い返すと、私は飛び石の上でよろけ、前を行く彼女の服をとっさに引っ張ったような気がした。

しかし、彼女に言われるまで、そのことは全く覚えていなかった。この認識の違いに気付いたことで、私は自分がいつでも正しいわけではないし、彼女もいつでも正しくないわけではないと思い始めた。

彼女は根っからの悪人じゃないけれど、私は完全に許すことはできない

小学校卒業後、彼女とは同じ中学校に進学した。中学校では、私は親の方針で部活に入れず、彼女は入部したばかりの部活を人間関係のトラブルにより退部していたため、同じ時間帯に一緒に下校することが多かった。

下校中、彼女は退部原因のトラブルや退部した代わりに得意な英会話に磨きをかけようと思っていること、進学したい高校についてなど、様々なことを私に率直に話してくれた。こうした会話の中で、やはり、彼女は根っからの悪人というわけではないのだとの認識が深まった。

しかし、認識が深まっても、私は彼女を完全に許すことはできなかったし、今も許しているわけではない。やがて高校受験を迎え、私も彼女も同じ高校を受験したのだが、彼女だけ不合格となった。この結果について、私は特に残念に思えなかった。むしろ、やっといじめの相手から解放されたのだと思った。

そのため、中学校卒業以来、彼女とは連絡を取っていない。傍から見れば、私は冷たい人間だろう。

大学進学のため上京して以来、私はほぼ地元に帰省していないため、今後彼女とかかわることはないと予想される。しかし、彼女はこれからも私の夢に登場するだろう。
 
世の中には、完全な悪人も完全な善人もいないのだと気付くきっかけになった彼女。いつかは、彼女の夢を見た日は調子が悪いというジンクスを断ち切りたい。