来週私は長年連れ添った八重歯にさよならを告げる。夏から始めた歯列矯正で段々と下の歯が揃い、ついに上の歯にも器具をつける時が来たからだ。
私が矯正を始めた理由は、歯並びの悪さから歯磨きがしづらく、8020が理想と言われるような歳を重ねたときに歯が残る状態が難しいと思ったから。もちろん歯並びが綺麗で見た目が整うことに小さな期待もあるけど、健康目的が1番だ。

10歳の特殊な誕生日プレゼントのおかけで八重歯を好きになった

実を言うと、私は上の2本の八重歯が結構気に入っている。中学生時代に大ブームだったAKBの元メンバー板野友美さんが可愛いと話題になっていたこともあるけども、実体験として八重歯を褒められたことがあるからだと思う。

それは10歳を迎える少し前のこと。私の家は裕福ではなかっけれど、10歳という節目なのか親は特殊な誕生日プレゼントを用意してくれていた。それはアメリカに1ヶ月ホームステイをしに行くか、歯科矯正をするかということ。

当時私は近所の英会話学校に通っていて、ちょうどアメリカ人の校長先生が一時帰国する時に家に招待してくれていた。歯並びは子どもの頃から顎が小さくて歯が入り切らず、その時点で大きな八重歯が目立っていることを私も親も気にしていた。

私は迷わずアメリカ行きを選んだ。到着してしばらくはウキウキだった。ただ、初めての海外がアメリカで、親や知り合いもいない中、私は贅沢な悩みだと思いながらも、正直とても辛い1ヶ月を過ごすことになった。

毎朝食べる生クリームたっぷりのホットケーキや味の濃すぎるホットドッグ、普段全く乗っていなかった車に毎日乗る生活が合わなくて何度も体調を崩した。現地の子どもが参加する動物園キャンプでは英語がほとんど分からず、どんな質問にもイエスと言っていたと思う。だけど英語が話せない中、奇跡的に、1人だけともだちができた。

「ヴァンパイアみたい」純粋に八重歯を褒められ、急に愛しくなった

彼女は褐色の肌にくるくるの天然パーマで、温かい笑顔を持つチェルシーという子だった。
動物園内をトロッコで移動しているときに聴かせてくれた歌声がとても澄んでいて、歌手になりなよ！と何度も何度も伝えた。英語が少ししか話せない私を気にかけて仲良くしてくれた優しい子だった。チェルシーがしてくれた話の多くは正直あまり理解はできなかったけど、1つだけ強烈に印象に残っていること、それが八重歯についてだった。

アメリカは子ども時代から矯正をすることが一般的のため、八重歯がそのままということが珍しかったのだろう。私の八重歯を見て、皮肉ではなく純粋に、とってもかっこいい！ヴァンパイアみたいでおしゃれだよ！と褒めてくれた。

それまでこんなに尖って前に出ている八重歯は恥ずかしいと気にしていたし、歯だけでなく自分の天然パーマや眼鏡やガリガリで太れない体型、全部の見た目が好きじゃなくていつも少し猫背になっていた。だけどその瞬間、コンプレックスだと思っていた八重歯が急に愛しく、チャームポイントだと思えるようになり、自分の見た目を少し好きになり始めることができたのだと思う。

八重歯は自分を肯定するきっかけ。自分を認める気持ちを大切に

来週にはこの歯の上に器具をつけて、それからどんどん他の歯と馴染んで、八重歯が八重歯でなくなっていく。楽しみがある反面なんだかちょっぴり寂しいのは、私が私のことを肯定するきっかけになってくれる存在だったからなのだろうか。

10歳の頃と比べて私はコンタクトをはめるようになって、化粧をすることを覚えて、歯並びも整ってきている。だからといって、個性のある私らしいすっぴんが嫌いになったわけではない。

むしろ、もわっとボリュームのある髪や、ぷりっと主張の強い下唇や、凹凸が少なくノッポな体も割と好きかもしれない。八重歯が消えてしまっても、私は私の見た目を認めてあげるこの気持ちを忘れずに大事にして、80歳でもしっかりと残った歯で、りんごを丸かじりできるような、白髪やシワの変化なんかも楽しめるような、自分大好きお婆さんへと歳を重ねていきたい。