私はカッコつけたがりだ。

会社でもだいぶカッコつけている。仕事は人一倍出来て、身なりも常に隙はない。時には後輩の盾になって、上司にズバッと切り込んだりもする。そして、どんな時もへっちゃらって涼しい顔をして、コーヒーを啜っている。そんなカッコイイ先輩でいられるはずだった。

憧れの女性像である、酸いも甘いも経験した「カッコイイ人」を演じた

私のカッコつけ癖は、自己肯定感の低さが原因なんだと思う。幼い頃から自分に自信がなく、人前で発言した事などなかった。要領も良くないし、人と上手くコミュニケーションがとれなかった。

小・中学生あたりまでは、あまり目立たないように教室でひっそり本を読んでいるような子供だった。しかし、高校生くらいから人に評価されたいと強く願うようになり、次第に自分を演出するようになっていった。

私の憧れの女性像は、酸いも甘いも経験済みで姉御肌な大人な女性。高校生で何の酸いがあるのかと思うが、そんな雰囲気の自分を演じ、なんならその為に年上の男性と付き合ったりして見事、周囲からは望む評価が得られた。まあ学生時代はそれでいい。背伸びする事自体に意味があるとも思う。

しかし、問題は社会人になってからだった。カッコつけ癖が抜けない私は、相変わらず毎日演じ続けていた。社会人も数年を経れば、後輩を持つようになる。私が入社した頃は残業が多く、職場環境があまり良くなかったため人がよく辞めた。

当然私も苦しかったけど、意地とプライドで続けていた。世間的にも今はいくらか環境が良くなったとはいえ、後輩の気持ちはよく分かる。それに私には頼れる先輩がいなかったから、私がそうなろうと決めていたのだ。このあたりから私のカッコつけ癖は加速してゆく。

「カッコイイ先輩」でなければならないと、自分を縛り付けていた

先輩だから、後輩より仕事が出来なくてはならない、憧れられる存在でなくてはならない。そうやって自分をがんじがらめにしていった。

ミスは絶対できない、仕事を頼めない、自分が無理して後輩を先に帰らせる。悪循環。本当の自分を置いてけぼりにして、もう気づく事も出来なくなっていたんだと思う。

日々の無理が積み重なった結果、私は会議中に突然過呼吸を起こした。同時に、とてつもない恐怖と不安が一気に押し寄せる。頭が痺れて目眩がひどい。動けない、怖い。自分の中に悪魔がいると思った。

誰か、誰かこの悪魔を私の中から引き摺り出して。初めて、社内の皆が見てる前で泣いた。恥ずかしい、死にたい。その日初めて救急車に乗った。

後に病院で、パニック障害と診断された。思い返せば予兆のようなものはあったが、まさか自分が病気だとは思いもしなかった。休職する事となり、否応がなしに自分と向き合う事となった。

休職して自分と向き合う事で、「隠していた自分」を見つけた

カッコいい私なんて本当にいたんだろうか。一体誰から見たら、そう見えていたのだろう。他人の目に映る自分を正しく知ることは出来ない。私の行動は誰かに望まれたものではなく、私が勝手に私に課したものだった。

カッコいい私が砕けて霧散したあの日、久しぶりに怯えて要領の悪い私を見つけた。大嫌いだった自分。だから隠していた自分。最初は病気になった事も、醜態を晒した事も受け入れられなかった。

でも、徐々にそんな自分に懐かしさも覚えるようになっていった。ずっとそこにいたんだね。無視し続けてごめん。ダサいけど、好きなものには真っ直ぐだったよね、私。昔の趣味とか飽きたフリしてたけど、やっぱり好きだわ。ずっと好きだよ、きっと。どんなに打ち消そうとしても消せるわけないよね。だって、あなたも私だもんね。

私の中には、幾人もの私がいる。弱い私を隠すためにカッコイイ私を生み出したわけだけど、これもれっきとした私なんだ。もう、どの私も無視はしない。

相変わらず表舞台に立つのはカッコつける私。だけど、その私が弱くて無力な私を時折引っ張りあげる。どの私も見てもらおう。多面体の私をそのまんま。