物心ついた時には「私は出来損ない」と気づいていた。
私には年の離れた兄と姉がいる。兄は地頭がいいのだろう。たいして勉強をしていないのにサラッと進学校へ進み、両親の無償の愛をひたすらに受けていた。姉は何をやらせても合格点を取るような人で、容姿端麗、周りからの評判も良く常に友人が周りにいる様な人だった。

成長していくにつれ学校の先生や兄、姉を知る人達から私は比べられるようになった。
性格も暗く、頭も良くない、要領も悪く、女に生まれたことが間違いと言われる容姿。「お兄さんと比べると…」「お姉さんに比べて…」。特に深い意味はないのだろう。それでも兄姉と比べられて傷ついた心は、頑張らなきゃと常に警告を出していて、人の3倍努力しようと勉強も部活も躍起になり、あの頃の私は言葉の通り「必死」に生きていたと思う。

「カッコイイ私」は、比べられないために見つけた私の生きる術

14歳の時、「カッコイイ」と言われたのがきっかけだった。今まで褒められてこなかった容姿を初めて肯定された気がした。

そこからは簡単だった。
髪をベリーショートにし、服装や持ち物は当然、読み漁る雑誌はメンズ雑誌。ひたすら友達が求める「カッコイイ私」に徹していった。不思議なことに、気づけば誰にもバカにされなくなった。姉と比べられることも、「似合わない」という言葉も言われなくなった。
その時から男の子の様に振る舞うのは私が上手く生きるための防衛策になり、気づけば性格も男の子の様になっていた。16歳、高校生になり女子校だった私は王子様かの様に扱われ、言わずもがな女の子からモテまくっていた。

大学は、地元から10時間もかかる場所を選んだ。決して家族が嫌いとか、家を出たいとかそういうことではなかったが、地元には私の苦い思い出もしっかりと刻まれていた。防衛策を手に入れたところで、私は呪縛の様な「兄姉の妹」のレッテルを捨てたかったのだ。

メイクもファッションも仕事も。必死になって鎧を被った

誰も知らない街で一から生きて行く為に、私はメイクを覚え、ファッションを覚えた。私を誰も知らないなら生まれ変わろう、そう決心し私は姉になろうとした。私とは真逆の姉になろうとしたのだ。18歳、「女に見えない」私がメイクとファッションにより、鎧を被って生きるようになった。私の世界がガラリと変わった瞬間だった。

女の子として扱われるようになり、可愛いという言葉を貰えるようになった。恋もできるようになった。地元に帰った時、家族や友人には誰だと驚かれたが、よく笑うようになったと姉から言われた。私の自分改造計画は成功したのだと実感した。

社会人になり、会社では新人として可愛がられ、女の子だから結婚して辞めるんだろうというあからさまな雰囲気を感じてしまった。そんな雰囲気を分かっていたのに、私は中途半端に力を抜くことができず、ひたすらに我武者羅に働いていた。「男だったら良かったのに」そう言われる事も多かった。これは褒め言葉として受け取っている。会社の雰囲気をぶち壊した女性という事だと思ったから。

自分を縛り付けた「出来損ないの私」が手に入れた鎧

子供の頃、自分を縛っていた「女の子として出来損ない」の私は「出来損ないの男の子」を目指した。段々と大人になった私は鎧を手に入れ、社会に出て見た目は女性、中身は男性と言われることが多くなった。

あの頃の私は自分を偽り、変えることに必死になっていたと思う。女性として出来損ないだった、男性になりきれない私は、普通の女性を目指した結果、普通ではなくなった。なぜなら女性としての美しさを手に入れ、男性の様な逞しさも手に入れてしまったからだ。
私は世間一般的な女性ではないだろう。だけど昔の自分よりよっぽど、生きやすい。