私は「元」オタクであり、臨月直前だった。だから散々悩んだ末に感染対策をして、平日の劇場で「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を鑑賞してきた。ヱヴァンゲリヲン新劇場版は本作をもって完結し、私はその終わりを目撃した。……めちゃめちゃ良かった。

私はテレビ放映時のエヴァには触れていない世代であり、なおかつ現在サブカルから距離を置いている主婦だ。しかしそんな私ですら、シンエヴァの公開には、他の何かとは比較できない感慨深さがあった。
2時間半鑑賞し、終劇した頃。私のマスクの中の湿度は、どエラいことになっていた。

その後、時間が経っても、日が経っても。学生の頃はそこまで感情移入してこなかったキャラクター達が、大人や妻、母としての目線で無性に気になり。
「ってか、宇多田ヒカルってやっぱすげェんだな」と、テーマソングの歌詞にのめり込み。
その上私がエヴァを知る以前から敬愛する安野モヨコさん(エヴァ総監督の奥様)にまで想いは波及し。未だに考察が止まらない。

以上は元オタクによる、早口の映画レビューだ。……で?このエッセイのテーマは、いったい何なのかって?
それは、「好きなコンテンツが長続きすること」と、「好きなコンテンツがきちんと終わりを迎えること」って、令和の今では希少価値があるよなぁ、というハナシなのである。

長期コンテンツが私達の生活に与える影響

私はスター・ウォーズがわからない。しかし私にとってのエヴァは、例えば旦那にとってのスター・ウォーズに近いのだと思う(多分)。
以前、旦那がスター・ウォーズの新作を映画館で鑑賞してきた際。私はフォースに関する心得がないので、詳しく感想を聞いた訳でもなかったのだけれど、彼は映画観賞の前後、確かにとても満足そうに、現実世界を暮らしていた。

私たちが住む世界には、様々な形の文化的な作品や、多岐に渡る活動の場を持つアーティスト達が存在する。そんな中で、ある特定のコンテンツに魅せられたファン達は、そのものの展開をエナジーとして、現実世界を生きていく。

旦那がスター・ウォーズシリーズという超巨大コンテンツの展開に対して、長年抱いてきた感情。これも恐らくは、これまでエヴァを追いかけてきた私の胸の内と、大きくは変わらないだろう。
私たち夫婦はそれぞれに、長続きするコンテンツの幅広い展開を追いかけ、供給の満ち引きを体感し、そのリズムに現実世界を彩られてきた。

そして私たちはそれぞれに、エヴァとスター・ウォーズの終焉も目撃している。

一つの作品が幕を閉じるということの尊さ

超巨大なコンテンツが終わりを迎えた時。そのコンテンツの閉じ方が、色褪せない思い出を残してくれるものであったなら。そのコンテンツはその後も、ファンの現実世界をしっかりと照らし続ける「灯火(ともしび)」となる。

長年賛否両論を生んできた、エヴァの展開。個人的な見解ではあるが、シンエヴァを見終わった今ならやっと、これまでの展開全てに価値や意味を見いだせるように思う。

エヴァはファンから向けられた25年分の重たすぎる愛を、新劇場版の4部作という形で丁寧に折り畳んでくれた。そして最終的に、令和3年を生きる私達に、しっかりとしたエンディングを還してくれた。私はそこに尊さを感じる。

私が劇場に足を運んだ3月某日、エヴァというコンテンツは、私の「灯火」となった。その時点で、私にとって「エヴァンゲリオン」の作品群は、「娯楽」と呼べる枠を越えて、私の「価値観」の一部となったのだ。これから先も、エヴァは私の現実世界を照らし続けてくれるだろう。

変わりゆく時代、“好きな作品”に熱狂する形も変わってゆくのだろうか

現代の流動的な社会において、今後は「好きなコンテンツが長続きすること」と「好きなコンテンツがきちんと終わりを迎えること」がより珍しくなると思う。社会現象と呼ばれるようなアニメ作品が25年以上続くなんてことは、恐らくもう当分ない。

例えば漫画も、スパッと20巻、30巻辺りで終わることが潔いとされつつある。
または長く愛された有名人の活動にしたって、ファンが喜ぶフィナーレが演出されるというのは、もはやレアケースな気がする。

ましてやこのコロナ禍。不要不急という概念の浸透や、文化的な作品や活動を応援することの意義付け。繊細なジャッジが各々に委ねられて、もう1年以上が経過してしまった。

今後こうした文化的な作品やアーティストとの出会いと別れ、そしてそれらがファンの現実世界の暮らしに与える影響は、より小さく、ささやかなものとなってしまうのかもしれない。

こんな今の世界で、25年目のシンエヴァを届けてくれた全ての人に、とにかく私は「ありがとう」と伝えたい。
私は、私達エヴァファンは。エヴァに匹敵する超巨大コンテンツには、もう2度と出会えないのだから。
私達はもう、大人になってしまった。私の長い青春を共に歩んでくれた、そして私の青春にきちんと終止符を打ってくれた作品は、エヴァだけだ。

だから最後に、大人になったファンの1人として、私はこう呟く。

「さらば、全てのエヴァンゲリオン」

私は現実世界を生きる。