ぼっちをしていた高2の頃。クラスにはもう一人ぼっちの子がいて…

高校2年生、私は絶賛ぼっちをしていた。
いじめられる訳でも無かったけど、いつも「自分だけ一人」という自意識ばかり拗らせて、休み時間は寝たふりや勉強をするふりをしていた。

私はなんというか賢くなくて、学校に行かないという選択肢が無かった。真面目というよりは「学校の決まり」の中にしか自分は存在しないと思っていた。だから、体育大会の朝練も、文化祭の準備にも参加していた。

同じクラスに、もう一人ぼっちの子がいた。
M君だ。眼鏡をかけた見るからに内気そうな雰囲気の子だった。
だけど、最初の印象に反して、彼は同じぼっちでも、私とは違うと段々感じ始めた。

まず、彼は自らぼっちを選んでいる。私みたいに止むを得なくではなく、最初から馴れ合い等不要、という雰囲気がばちばちにあった。
また、彼はよく消えた。
体育大会や文化祭には当然のようにいなかった。
それどころか通常の体育の授業中にジャージのまま、いつの間にか消えることがあった。
彼のそのブレない感じは、一歩間違えればいじめの標的にもなりそうだったけれど、不思議とそうはならなかった。もう高校生でクラスメイトも大人だったのと、学校のおおらかな校風ゆえだと思う。

ぼっちだった彼。話したことはないけど、仲間意識を持っていた

私の出身高校はかなり平和な学校だった。
ある時、席替えでM君とチアリーディング部のめちゃめちゃ可愛い女の子が窓際の席で前後になったのだが、その女の子がとても良い子でM君に積極的に話しかけていた。

M君も最初は「静止画かよ」とツッコミたくなる程の無表情で接していたのだが、段々と心を許し始めたのか時折笑顔を見せるようになり、ついにはM君の持っていたフィギュアを女の子が窓際に並べはじめていた。
私はそれを見て、なんて平和な光景なんだろうとしみじみしていた。

 とにかく、そんなM君をわたしはかなり面白がりながら見ていた。同じぼっちとしての勝手な仲間意識と、なのに全く別物の性質を持った彼を。

 彼のエピソードはこうして思い出せるが、実際言葉を交わした記憶は一度しか無い。  
 どこの学校にもあると思うが、毎年クラスの係決めというのがあった。もう何の係だったかも忘れてしまったが、ぼっち同士余った私とM君は晴れて同じ係になったのだ。 

緊張する私に彼は一言「頑張らなくていい」と言った

ある日、係の仕事をすることがあった。先生からクラス全員分のプリントを渡され、配って欲しいという仕事だった。
私は女子の分は自分が配り、男子の分はM君に配ってもらおうと思い話しかけにいった。
「この紙ね、今日中に配んないといけないんだって。私女子の分配るからさ、M君男子の分配ってくれない?」

話しかけるのが初めてだったのと、プリントを配らないといけないというプレッシャーで、早口でM君に伝えた。すると、M君は一言、「頑張らなくていい」と言った。
最初はなんて言ったのかわからず「え?」
というと、また、「頑張らなくていい」と、それだけ言った。
わたしはその言葉にかなり驚いた。彼の諭すような声と、何より、他人に興味が無さそうな彼が、良く分からないが私のためを思っての言葉を言ってくれたことに驚いた。

 彼と交わした会話は、記憶の限りそれしかない。ちなみに結局、釈然としないままなぜかわたしはクラス全員分のプリントを配ったのだった。

大人になってから分かった。着実に夢へ進む彼はリア充だった

高校3年生になり、わたしはぼっちを脱出した。M君は相変わらずぼっちだった。
 ひとつ新情報があった。部活の後輩の女の子から、彼は図書室に入り浸っているという話を聞いた。なるほど、授業中消えてゆく先は、図書室だったのか。彼は確かに、本をよく読んでいた。

そのままM君と接点は無く、卒業した。
卒業文集にM君は、
「何をもって幸せとするか分からない。でも芥川賞が獲りたい。諦めるな、決して」
と書いていた。

大人になってから分かる、彼はぼっちだったけど本当の意味ではリア充だった。
私が人の目やルールばかり気にして寝たフリをしたり、漫然と他人に合わせている間、彼はもっと広い視野で世の中を見て、本を読み着実に夢へ向けた充実した生活を送っていたのだ。

彼は私が思考停止状態で人と合わせているのを見て、「頑張らなくていい」と言いたくなったんだろう。彼がいなかったら、私は今も漫然と人と合わせる生活に違和感を持っていなかっただろう。

この前久しぶりに卒業文集を読んで、彼や自分を含め素直に文集に夢を書いている生徒の純粋さと、生徒にそうさせる母校のおおらかな校風を思い出して懐かしくなった。
ちなみに、M君の本名をインターネットで検索してみたが、何も出てこなかった。
ここまで何も出てこないのも彼らしい潔さだな、と思うと同時に、ペンネームで小説家として頑張っていればいいなぁと思った。