私にとって、彼女のような友人は初めてだった。同じ学校に通っていたものの、違う学部だった私たちは、同じインターン先で働くようになってから、初めてお互いの存在を知った。
「柔らかい雰囲気が似ているね」と周りからは言われていたけれど、真逆の存在だとお互い思っていた。私は感情表現が豊かで、新しいことに挑戦することが好きだったけれど、彼女はいつも穏やかに笑っていて、型通りのことをコツコツと進めることが好きだった。
感情的に物事を考える私と、理性的で冷静な彼女。意見が合うことは少なかったけれど、自分では思い付かない考え方が面白くて、会話を重ねるうちに会社だけでなく学校でも同じ時間を過ごすようになった。
友人であり、ライバルであり、同志であり、異なる視点をもつ別世界の住民という、ひとくくりでは言い表せない関係。彼女と過ごす日々は、穏やかで新鮮な出来事の連続だった。
採用という慣れないシーンでも私にはない視点で考える彼女に抱いた感情
こんなエピソードがある。
後任のインターン生の採用を任された日のこと。2人とも面接を受けた経験はあれど、逆の経験はなく、何を基準に選んだら良いのか分からなかった。
採用は会社全体に関わることだ。どういう人がこの会社に合うのだろう、弱い部分を補助してくれる人が良いな。会社に最も利益を生む人を採用したい、私はそう考えていた。しかし彼女は違った。
「私たちは今回採用する立場だから、会社の利益を考えるのは当然のこと。でももう1つ考えなければならないことがあるよ。それはこの会社でのインターンが、この子達の人生にとって本当に良いことなのかということ」
働くということは、お互い幸せになることだ。対価として何を望んでいるのかは人によって違う。しかし、お金を目的としていないインターンにおいて、貴重な経験をさせてあげたり、自分の新たな可能性に気づくチャンスを少しでも多く与えてあげたい。この経験がインターン生の人生において大きな糧になってくれると良いな。
彼女と同じことを考えている人は、この世の中にどれだけいるであろうか。自分達のメリットばかり考えていた自分が恥ずかしくなったし、彼女のように世界を見てみたいものだと羨ましくなった。
与えられるものがあまりなく、もらうことの多かった学生時代。彼女のように相手のことを一番に考え、与えられる人に出会えたことは奇跡だったと思う。
今の私には何が出来るだろうか。そう考えるきっかけをくれたのは、紛れもなく彼女だった。
彼女ほど自分と違うのに一緒にいたくなる友人とまだ出会えていない
そんな彼女とは社会人になって少し経ってから、大喧嘩の末に会わなくなった。
本当にあっけない終わりだった。元々真逆だった私達は同じ目標をみていたから、歩調が合っていたのかもしれない。
あれから5年が経った。社会人になってより多くの人と関わるなかで、学生時代よりもグッと世界は広がった。でも彼女のように自分とは正反対の視点で世界を眺めていて、その違いが不思議と居心地が良く、もっと一緒にいたくなる友人は現れなかった。
「そろそろ自分のことだけじゃなくて、人に与えることを考えなさい」
そう神様が私に伝えたくて、引き合わせたのが彼女だったのかもしれない。あなたがいたから、私は与える人になりたいと思うようになったよ。当時21歳、大人になったばかりの私に与えられたプレゼント。
きっとこれから何年経っても、色褪せないであろうあの子のお話。