社会人4年目を終える頃、同期の彼女が転職することを聞いた。
コロナ禍の休業の頃から下準備をしていたそうだ。

4年前の3月末、実家から社員寮に引っ越してすぐに開催された寮内の説明会で初めて会った。背が高くてすらっとした気さくな女子というのが第一印象。背が低くてぽっちゃり、コミュニケーションに難のある私とは何もかもが違っていた。

説明会後の初対面では出身の地方、技術系か事務系のどちらでの採用かについて話をした。この2点のどちらも彼女とは真逆だったことを覚えている。

否定の言葉を使わない彼女は話しやすく、自分もそうなりたいと思った

入社後に行われる新人研修を経て配属された部署が、その彼女と一緒だった。

元々採用形態が異なるので共に働くことは無かったが、同じフロアの別のところで働いていた。何かといえばご飯を食べに行ったり車で出かけたり、たわいないことを話す仲だった。

お互いの地元の話、会社の上司に関する愚痴、恋の悩み、友人の結婚の話……会社の人の中では彼女に一番話をしていたと思う。気さくで柔らかい雰囲気を持つ彼女は会話のリアクションが豊かで、否定の言葉を使わない人だった。
それゆえスルスルと話をしてしまっていた。私から見て彼女は誰にでも比較的分け隔てなくコミュニケーションを取っていたように見えた。

私は彼女とは違って人との接し方にムラのある人間だったが、「彼女と話している人は楽しそうだ」「こう聞けばコミュニケーションが円滑になるんだ」と思い、気づけば自分もそうなりたいと感じるようになった。

私が彼女を好きになった部分を自分でも身につけたくて、コミュニケーションを意識するようになった。傾聴して相手の欲しいタイミングでリアクションをする、話しかけやすいオーラを出してみる……今まで自分本位でしか話せていない私には難しいことだった。
今はまだ再現を出来ていないが、練習していけばそのうち結果は出るだろうか……。

ある日、定時退社後にわざわざ呼び止められて聞いた、彼女の決意

働きはじめてから数年経ったある日、定時退社の後に「今日この後、話し出来ないかな?」と確認された。わざわざ呼び止めてする話といえば、結婚かもうひとつのことだろうと予測した。結果は後者で、「明日、上司に退職を報告する」と伝えられた。

彼女にはその上司への不満はなかった。話を聞いてくれて、分からないことを親身に教えてくれる方だと言っていた。
しかし、彼女も私のように地元を離れて就職しているため、将来の生活について考えることが増えたそうだ。1年以上続いているコロナ禍も追い風になった。

話し始める前にうっすらと予測をしていたことが当たっていたので、「いつまでこっちにいるの?引っ越しまでにご飯食べに行こう」とだけ返した。
社内で他の同期が立て続けに辞めていた状況で、彼女も次の就職先も決まっている中で止めたところで私にはどうにもならなかったからだ。即座にこれを考えついた私はやはり彼女より淡白なんだろう。

せめて彼女の決心を潰さないように背中を押そうと思った

何年か同じ会社で働いて様々な思い出がある彼女と離れるのは寂しい。彼女の心配より先に自分のこの感情が出てしまったけれど、せめて彼女の決心を潰さないように背中を押そうと思った。

最後にご飯を食べに行った帰り、「この子を車に乗せて出かけるのはもう最後なんだ」とふわふわした不思議な感覚があった。彼女はもうオフィスには居ないが、未だにあまり実感がない。

前の彼氏と別れた理由も、私が今本業と別領域の勉強をしていることも彼女しか知らない。逆に、彼女の仕事話やこの数年間のプライベートで私しか知らないこともあるだろう。

彼女は自分の荷物と一緒に私の打ち明け話も持ち去っていった。
私は彼女が話した心の内を胸にしまいながら、もう少しこの地で踏ん張ろうと思う。