大学三年生だった二年前、私は最低な女だった。あれから二年も経つのか、と、このエッセイを書き始めて驚いた。

当時アルバイトしていたカラオケ店の同期の子の、「紹介したい人がいるんだけど」と言う言葉が始まりだった。
元恋人と別れて三ヶ月経ったタイミングだったし、大学の友達が幸せそうに惚気けてきたのをあしらった後だったし、いつも一緒だった仲の良い友達となんとなく疎遠になってしまっていたし、そういう小さな理由がいくつか作用したのでとりあえず話を聞いてみた。

きっとこれ以上ないってくらい完璧な恋人だった。でも結局最後まで…

彼女が言うには「将来はエリート間違いなし」の「料理上手で家事も得意」で「高身長で優しい」という完璧を詰め込んだ男らしい。言われるがままLINEで連絡を取り合って、そのままの流れで初デートの約束をした。

私たちの通っていた大学のあるところは県内ではまだ栄えている方で、県内にしては洒落たショッピングモールの入口で待ち合わせをした。もともとランチの予定だったけれど、お店を決める時の彼は本当にスマートで、好きなものや嫌いなものを聞いてくれた上でピックアップしたお店の食べログのURLをひとつずつ送ってくれた。
決めきれないでいると、「もしよければここにしませんか、俺も気になっていて」と助け舟を出してくれた。……なるほど、気遣いもできる、と。

告白されたのは三回目のデートの別れ際だった。そういうところまで彼は「完璧」だったといえる。
デートでお金は基本出させない。食い下がると五百円だけ貰ってくれる。ドライブデートでは常に安全運転。歩く時は車道側。言葉でも行動でも愛情表現はしっかりしてくれる。きっとこれ以上ないってくらい完璧な恋人だった。

でも、結局最後まで、手すら、繋げなかった。本当に最低なことに元恋人のことを引きずったまま付き合っていたからだ。彼は頭のいい人であったので、その存在を話したことはなかったけれど、なんとなく察していたのだと思う。

あまり話のできないラーメン屋さんでお昼。夕方、ようやく帰りのバス

そんなある日、彼の地元だという場所へ片道二時間半かけてバスで行くことにした。この頃はもうお互い、終わりの雰囲気を感じていたと思う。
行きのバスの中は、お互い無言だった。なんとなくスマホを弄ることもできなくて、ペットボトルのお茶を飲んだり寝たふりをしたり、なんとかやり過ごした。

目的地に着くと雨が降っていた。二人とも傘を持ってきていなかったので、コンビニで二本のビニール傘を買って歩いた。傘に雨が当たって音が鳴る。おかげで会話がなくても静まり返ることがなくて、初めて雨にホッとした。

ひたすら歩いて、ショッピングモールの前を通りかかっては気を遣うように「入ってみる?」と彼が問う。答えは決まって「いいですね」。それを何度か繰り返して、お昼ご飯はあまり話のできないラーメン屋さんへ。長い長い雨の日の夕方、ようやく帰りのバスに乗り込んだ。

最低な私に愛想を尽かして振ったのだろうか。それとも…

彼は来た時とは違うコートを身につけてバスに乗っていた。出発の一時間ほど前に駅ビルにある服屋さんで私が選んだものだった。
大学生には少し高そうなお店だったけれど、彼は慣れたように入っていって店員さんに挨拶していたので、どうやら馴染みのお店のようだった。店員さんが私の方を見て会釈して、彼となにか話していた。

「コートが欲しいんだけど、選んでくれない?」

戻ってきた彼はそう言って、私をコートがたくさん掛けられているエリアに連れていく。男物の服を選んだことがない、自信がないと言っても珍しく押しが強いので深い青のコートを選んだ。背が高くて大人びた彼にとても似合っていた。

それから1週間ほど経って、彼から別れを告げるLINEが届いた。就活が忙しくなるので、と、見え透いた建前が並んでいた。

彼はどういうつもりで別れを告げたのだろう。最低な私に愛想を尽かして振ったのだろうか、それとも私のために自ら身を引いたのだろうか。
できれば、どうか、前者であってほしい。優しい彼が自ら傷つく選択をしたのではなく、自ら幸せになる選択をしたのだと信じたい。

そう思ってしまう私は、きっと今でも最低のままだ。