父ちゃんへ

混み合う電車に揺られて通勤するのも、もう5年目。

電車の窓から見える桜や、近くに乗っている学生の真新しい制服を見ながら、中学校に入学した13年前の春を思い出しているよ。

家から離れた学校に進学。毎朝父ちゃんの車で通学することになった

私が進学した中高一貫校はおうちから離れていたけど、父ちゃんの職場と同じ方向だったから、朝は父ちゃんの車に乗って通学することを提案したのは、父ちゃんだっけ?母ちゃんだっけ?

電車通学よりも早起きをしなくちゃいけなかったけど、車に乗っちゃえばゆっくり座っていられるし安心だし、ナイスアイデア!

帰りは父ちゃんのほうが遅いから、私は電車で帰らないといけなくて、父ちゃんの仕事がもっと早く終わればいいのにって思ってたなあ。

同じ小学校出身の友達がいない環境に飛び込む初日の朝、顔には出してないつもりだったけど、私が不安で仕方がなかったってこと、父ちゃんにバレていたかな?
父ちゃんの車の助手席に乗って話していると、緊張がほぐれた気がしたよ。

小学生のときは、私が起きる時間よりも早く父ちゃんは家を出ていたから、父ちゃんと過ごす平日の朝の時間は日曜日の延長みたいなかんじだったし、父ちゃんのスーツ姿、新鮮だったよ。

話をしたり、勉強したり、爆睡したり…6年間ほぼ毎朝乗せてもらった

父ちゃんの車に乗っている朝の40分間。

友達のことや学校であったおもしろい出来事だけじゃなくて、ムカついた話もたまにしたね。

テスト前やテスト当日の朝は車の中で勉強したし、夜更かしをしてしまった翌朝は車の中で爆睡したなあ。私が水筒や筆記用具を忘れてしまったときは、途中でコンビニに寄って買ってもらったね。朝からなんとなく体調が悪くて、車に乗ったけどどうしても学校に行けない状態になったときは、家に引き返してくれたね。その日、父ちゃんは仕事に遅れちゃったんだよね、ごめんね。

逆に父ちゃんの体調が優れなかったときは、家に帰る前に私を学校まで送ってくれたね。つらかったはずなのに、ごめんね。

6年間ほぼ毎朝、父ちゃんの車に乗せてもらっていたね。

高校生になると、同じ小学校だった何人かの友達が電車通学デビューをしたから、私も朝に電車に乗ってみたこともあったなあ。でも朝の電車は座れないし窮屈だし、すぐに快適な父ちゃんの車に戻ったっけ。

助手席ではなく、後部座席に座るようになったのはいつからだったかな。多分、父ちゃんと言い争った翌朝だったなあ。言い争った原因は忘れちゃったけど、そんな険悪なムードでも同じ車に乗って行った私たち、おもしろいよね。一度後部座席に乗ったら、助手席に戻るのはなんだか抵抗があって、それから高校を卒業するまではずっと後部座席に乗ったよね。

振り回してごめん。あの頃のようにかけがえのない時間を過ごしたい

父ちゃんの車に乗って過ごしたあの朝の時間は、中高の6年間で合計何時間になるのかな。

私は毎朝、父ちゃんの通勤の“ついで”に車に乗せてもらっていて、父ちゃんと母ちゃんにとっては安心、私にとっては楽であるこの通学手段は、友達からも羨ましがられたなあ。あの頃ははただの“ついで”だと思っていたけど、今思えば、かけがえのない時間だったよ。

ずっと私が話しているときもあれば、勉強したり寝ていたり、一言も話さないこともあったり、振り回しちゃってごめんね。でも、父ちゃんも私と同じように、あの時間を良い思い出だと思ってくれていたらいいなあ。

高校を卒業して実家を離れて、父ちゃんの車に乗るどころか、父ちゃんに会う機会もかなり減っちゃったね。私は朝の混み合う電車に揺られながら、またあの頃のように父ちゃんの車で朝の時間を過ごしたいなあって、ぼんやり考えてるよ。

もちろんそのときは、助手席に座るからね。