私は現在、22歳。生まれてこのかた、一度もセックスをしたことがない。周りの人に言わせればそれは、ちょっとというか、かなり「遅れている」ものらしい。

人を好きになったことはある。でも、この人といると楽しいな、また一緒にラーメン食べにいきたいなといった思いであって、それ以上に何かを感じたことはない。手をつなぎたいと思ったこともないし、ましてやセックスなんて。

アパートの隣人の喘ぎ声を聞いて、私は「肉体関係」について考えた

私の母親は「早く結婚して」「孫の顔がみたい」と言う。私は子供がわりと好きだ。目が小さくて、顔の四角い自分の顔に似た子供なんて絶対面白いだろう。それに両親にはこれまでめちゃめちゃお世話になったし、恩返ししたいが、ちょっと無理かもなぁと思いながら「分かった分かった」と返す日々だ。

そんな私がセックスについて考えるようになったのは、大学4年生の時だ。ある日、隣人が越してきた。壁の薄いぼろいアパート。隣人のあくびの音、流行りの歌を口ずさむ音。なんでも筒抜けだった。

いつものように卒論を進めていた夜。隣の部屋から、子供の泣き声のようなものが聞こえた。聞き間違いかと思って、パソコンに目を戻すと、その泣き声はさっきよりも、もっと過激になった。「虐待か?」と心配になって、壁に耳を当ててみると、「あーん。いっちゃうー」と聞こえてきた。男の笑い声も聞こえた。

その時、分かった。あ、これ、もしかして喘ぎ声ってやつかと。それまで、私は“喘ぎ声”といったものを聞いたことがなかったため、若干の感慨深さも感じていた。その後も隣人の喘ぎ声は激しさを増し、卒論作成のBGMとするには、耐えられない音量になっていった。

アダルトコンテンツを見て、私は「あまりやりたくないな」と思った

うーん、どうしたものかと考えながら、ふと、セックスってどういうものなんだろうと疑問に思った。隣からは喘ぎ声の他に、いろんな音が聞こえてきた。私はこれまで、セックスとは二人の人間が裸で抱き合うものだ、という程度の知識しか持っていなかった。そのため、なぜ隣室からいろいろな音が聞こえてくるのか理解できなかった。そこで、私はセックスとはどういうものか知りたいと思い、AVを調べてみることにした。

私は映像配信のサブスクに入っている。普段、邦画やアニメを見ているが、もしやこの中にAVが入っているのではと考えながら、サイト内をうろうろしていると、見つけた。おすすめと表示された動画の再生ボタンを押してみてみると、確かに隣室から聞こえてきたような音を立てながら、男女がセックスしていた。

なるほど、セックスとはこういうものなのか。勉強になったぞという気持ちと共に、私はあまりやりたくないなと思ってしまった。

子供は好きだし、自分の子供もいずれはほしいと思っていたが、男の精器を自分の股につっこまれるのはいやだし、身体をなめたくもないし、身体触られたくないし、なんか男にされるがままだし。

本当に好きな人ができたら、いつかは肉体関係を持たなきゃいけない?

その、AVを見てからというもの、軽率に「いつかは結婚したいなぁ」とか「子供ほしいな」とか言わないようになった。AVで見た男女のセックスがちらつくからだ。あんなことしなきゃいけないなら、一生一人でいいやとか、割と本気で思っている。

でも、親は悲しむだろうなと思う。悲しませたくはないけど、生まれてこの方、他人に、ましてや男に触りたいと思ったことがない。そんな人間に、セックスはきっと無理だろう。友達は「まだ、本当に好きな人に出会ってないからだよ」と言う。それを聞いて、「あ、この子もセックスやったことあるんだ」となんとも言えない気持ちになった。

本当にそうなのかな。セックスって、いつかはしなくちゃいけないのかな。やらなくてもいいから、ただ一緒にいてくれるようなパートナーが欲しいなと思った。