「理想の働き方」というものを、どれだけの人が思い描くことができるでしょうか。
私はすぐに思い描くことができます。幼いころからずっと、父の姿が憧れであり理想です。父の働く姿が世界で一番格好良いと胸を張って言えること、そう思わせ続けてくれていることが誇りです。

好きなことを仕事にした人が持っている、並々ならぬ覚悟

父は車が好きで自動車整備士として自営業を営んでいます。
「好きなことを仕事に」。これは小さいころ誰もが思い描く夢でしょう。お花が好きな子はお花屋さん。サッカーが好きな子はサッカー選手。しかし、それを叶えることがどれだけ大変か、就職活動を始める何年も前に気づいてしまいます。

「今まで大好きだったものを大嫌いになる覚悟はあるか」
知らず知らずのうちにそう問われ、その問いに迷うことなく「はい」と言える者だけが好きなことを仕事に出来る人だと思います。
全身全霊注いできた好きなもの、得意なものを社会のものさしで測り、負けを経験する。自分自身よりも技術も想いも上の人と出会って未熟さを認識する。不甲斐なさを痛感してもなお、やっていこうと思えるか。大好きだった自分自身の心を占めていたものがぽっかりと消えた姿を思い描いてみれば、好きなことを仕事にした人が並々ならぬ覚悟を持っていると想像がつきます。

「車が好きだから整備士をしている」としか答えてくれなかったけれど

父とは深く仕事の話をしたことはありません。学校の課題で家族の働き方を聞かなければならないときは「車が好きだから整備士をしている」としか答えてくれず、頭を悩ませたぐらいです。
しかし、今ならわかります。この言葉に全てが詰まっていたと。そしてこの言葉に私は背中を押されていたということを。
「お給料は我慢料だ」とよく耳にしますが、私はそうは思いません。人生の大半を占める「働く」という時間が我慢だなんてもったいないと思いませんか?

同じ時間を過ごすなら楽しんだもの勝ちです。楽しめるかどうかは環境ではなく、自分自身で決められることだと信じています。楽しんで仕事をし、「あんなふうになりたい」と思ってくれる人が一人でもあらわれるような、誰かに安心、希望、勇気を与えられる人になりたいです。
生きることの楽しさを教えるのは、大人が担う役割だと思うから。憧れの人が増えていくことはこれから歩む道に彩りが加わることでしょう。父が私に彩りを加えてくれたように、次は私がどこかにいるだれかに彩りを与えていく番です。

私にしか見られない景色を、ゆっくりと自分自身の目で確かめます

「ただ好きだから」
これは世界で一番真っすぐで、消えない火を灯した原動力です。私はこうやって心の中を整理し、ゆっくりと言葉を紡いでいく時間が好きです。いつか、私の紡いだ言葉も読んだどこかの誰かが、自分自身の歩んできた日々を愛おしいと思ってくれたらいいなと思います。

父のように「好きだから」という前向きな原動力で行動できる人を目指して歩んでいきます。はじめたばかりでも、下手くそでも、評価されなくとも良いじゃない。だって好きなんだから。好きでいつづけた人だけが見られる景色はどんなに美しいでしょう。自分自身の足で歩み、その景色を見たいです。
それは父の見た景色とはちょっと違うかもしれません。でもきっと素敵な景色であることは間違いないでしょう。私にしか見られない景色。父がいてくれたから見られる景色。ゆっくりと自分自身の目で確かめていきます。