受験期、私は父の前で2回泣いた。

センター試験前に胃腸炎に。パニックで泣いた私の横には父がいた

高校生のとき、進学校に通っていた私はほぼ毎日、8時から22時まで学校や塾の自習室で勉強をしていた。私の家は駅から遠かったので、毎日父が車で送り迎えをしてくれた。

父とは特別会話が多いわけでもないけれど、私の受験勉強を気にかけてくれていることは分かった。私も父の送り迎えの甲斐あって、しっかりと勉強時間が確保できたおかげで第一志望の大学の模試で良い判定をもらえるようにもなっていた。

しかし、センター試験の3日前に私は胃腸炎になってしまった。父に連れられて夜間病院に向かっているときは、気分が少し悪いから一応薬がもらえたら安心だなという気持ちだった。

でも、病院に着くと吐き気が出てきて、診察の結果、センター試験の本試に行けないかもしれないと言われた。センター試験に向けて年末年始も休まずに勉強をしてきて、ラスト一週間の勉強計画も上手く進められているときの出来事だった。

一気に第一志望の合格圏内から弾き飛ばされたような気持ちになり、パニックで泣いた。薄暗くて静かな待合室が、私の絶望をより演出しているようだった。私の横に座っていた父はなんと声をかければ良いのか分かっていない様子で、ハンカチを貸してくれた。

第一志望の大学に合格した時、父は大きな声で喜びを叫んでくれた

それでも病院から副作用は強いものの、効き目は抜群な薬をもらえたおかげで、私はセンター試験の本試に行くことができた。その後の二次試験対策の勉強も気を緩めることなく進められたし、苦手な数学も少しずつコツをつかんできていた。ストレスが原因で、吐き気や嘔吐に悩まされることもあったが、なんとかメンタルを保ちつつ二次試験に臨むことができた。

毎日送り迎えをしてくれる父は、自発的に私へ勉強のことを聞かないものの、私から「今日は数学で6割くらい正解できたんだ」などと褒めてほしい感をたっぷり出した自慢を伝えると、気持ちいいくらい褒めてくれた。

そして、私は第一志望の大学に合格した。その時、父は私が聞いたこともないほど大きな声で「良かったー!!」と叫んでくれた。合格した実感のなかった私だが、この時に初めて涙を流して嬉しいと思った。

私の受験生活は、父の前で涙を流しながら絶望を感じつつも、父の前で涙を流しながら感じた喜びで幕を閉じた。
しかし、父には伝えていないことがある。実は、父の「横」では何度も泣いていたのだ。

付き合っている彼との別れが不安だった時、車の中で涙を流していた

私には当時、付き合って1年になる彼氏がいた。彼の存在を父は知らない。私と彼は、別々の大学を志望していた。それはつまり、私の勉強がうまくいけばいくほど、彼の勉強がうまくいけばいくほど、離れ離れになっていってしまうということだった。

彼と別の大学に行けば、彼とは別れることになるかもしれない。でも、恋愛を理由に志望校を変えることはしてはいけないことな気がしたし、彼に志望校を変えてとも言えない。この気持ちがグルグルグルグルしたまま、私は勉強を続けていた。自習室のピリっとした空気の中で集中して勉強をしているときは、不安な気持ちを忘れることができた。

でも、父と2人きりの車のなかでは……。英単語帳も読めないような暗い車内では、心の奥底にある不安が一気に押し寄せてきて、涙になって体の外にあふれてくる。車内にラジオが流れ、父が運転に集中していることを良いことに、私は涙を流していた。

電車では人目が気になるし、家に帰ればまた勉強をしなければいけない。そんななか、父が運転する車は涙を流す最適の場で、ここで泣けるからこそ他の時間は勉強に集中することができた。

それも一度や二度ではなかったし、二次試験が近づくほど涙を流すスパンも短くなっていった。私は父の「横」で、勉強とはまた違った不安を涙でリセットしようとしていたのだ。

「毎日送り迎えをしてくれていありがとう」に込められた本当の意味

結局、私と彼は第一志望に合格することになった。受験後、不安に思いながら彼と話していていると、彼は私と別れる気などさらさらないようだった。しかも、私と彼は別々の大学に進学はするものの、お互いの下宿先は一時間半もあれば着く距離にあるようで、これからも無理なく会えそうである。

そんな安心した私に彼は「君のお父さんに会ってみたい」と言ってくれた。大学に進学してもお付き合いを続けるなら、内緒の関係は止めたほうがいいと考えてくれたようである。
私は勇気を出して父にお願いしてみた。父は「忙しいからやめておくよ。でも、新しい土地でも頼れる人がいるなら良かった」と言ってくれた。

父は、受験生の私が勉強だけでなく彼氏のことでも悩んでいたことを知らない。合格した日に伝えた「毎日、送り迎えしてくれてありがとう」の言葉の裏の意味を知らない。
お父さんが送り迎えをしてくれたからこそ、私は不安な気持ちを涙で流せていたんだよ。
お父さんが送り迎えをしてくれていなかったら、私は不安で押しつぶされていたかもしれないんだよ。

毎日、送り迎えしてくれてありがとう。