実は、父に伝えたいことがある。

落ち込まないでほしい。私は父が嫌いだ。

両親の喧嘩を見るのが苦しくて辛くて、私は逃げるように上京した

家の外ではいい顔をするくせに、家の中では無愛想。イライラすると顔と態度に出るし、何より私の大切な愛猫に優しくない。すぐに「捨ててこい」と言い出す。動物に優しくない人が、良い人なわけないと思う。

父に似てすごく重い一重も嫌いだ。女の子なのに目が小さくて、笑うと目がなくなる。困る。お願いだから二重になって欲しい。おっと、脱線。

とりあえず、他の父だったらどんなに良いのだろう。明るくて気さくで優しい父だったら、どれだけ幸せだろう。そう考えた日もたくさんあった。

両親の喧嘩が絶えずあった頃。高校生の私には狭すぎる世界で、何度も逃げ出したくなった。母を泣かせる父が大嫌いだった。喧嘩が始まると、兄と弟は自分の部屋に逃げる。そんなバラバラの家族が嫌いだった。

何故かその時の私は、喧嘩を止めなくてはいけないと思っていた。それが苦しくて、辛くてたまらなかった。そして、私は逃げ出すように高校卒業と同時に長崎から離れ、遠くの東京に就職した。

父が仕事中に怪我をして入院することに。父はいつの間にか老いていた

それから1年がたった頃だったか。父が仕事中に高いところから落ちて入院した。父の入院を聞いた時、私は全然心配にならなかった。なんて薄情なやつなんだろうと自分で思った。

奇跡的に大事には至らなかったが、半年の入院生活が続いた。リハビリをし、退院する頃の父はすっかり大人しくなっていた。大好きだった海にも全然行かなくなった。いつの間にか腰が曲がり、白髪混じりでおじちゃんになっていた。

私は寂しくなった。もっと堂々としていてよ。優しくなんてしないでよ。お願いだから、そんなに苦しそうな顔しないでよ。そう思った。

退院してから少したった頃、父が子猫を拾ってきた。道で震えていたらしい。それは、今まででは考えられない事だった。

距離が離れ就職した今、不器用な父が精一杯、私にくれる愛に気付いた

でも本当は私、知っているよ。父が動物を好きなことも、子供が好きなことも。自分の感情を伝えるのが下手で、恥ずかしがり屋の不器用だということも。私が長崎に帰る時、必ず空港まで迎えにきてくれるよね。その日は仕事も早く終わらせて、カレンダーに私が帰ってくる日と戻る日を書いていることも知ってるよ。

小さな時に、母には内緒で作ったクリームソーダの味。3D眼鏡をかけて観た映画を忘れることが出来ない。夏になると、毎週のように海に遊びに連れて行ってくれたことも忘れない。ロケット花火を手に持ってする父がかっこよくて自慢だった。カブトムシを捕まえるために、夏の夜に森に連れてってくれる父が大好きだった。

距離が離れ、就職し、父と同じ立場にたった今。不器用な父が精一杯、私にくれる愛に初めて気付いた。本当は、ずっとずっと大好きだった。嫌いなところを含めて、全て父だった。

素直になれない娘と、素直になれない父。これからは素直になるからね。育ててくれてありがとう。お父さんのことが嫌いで、大好き。これは不器用な私が送る、ただ1人の父への、たった1つのラブレター。